そうか、君はここにいたのか

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そうか、君はここにいたのか

 僕は本のページを閉じ、テーブルに置いた。数ページ読み進めたものの、その内容は全く頭に入らなかった。  窓の外に目を向ける。穏やかな日差しが、優しい光を部屋へと運んでいる。  とても静かな世界。  僕は1人。  ソファーから立ち上がり、ベランダに出た。雲はあるものの、その隙間から光が差し込んでいた。  妻がいなくなって2ヶ月。  何も変わらない町。  ふと目の前を舞うものがあった。  雪だ。  たしかに今日は寒い。しかし、こんな時期にこの地に雪が舞うなんて。  僕はしばらく見とれていた。  妻が生きていたら、すぐに声を掛けていただろうに。  雪は次第に強さを増したが、地面に落ちてはすぐに消えていった。  積もることはないだろう。  僕は踵を返し、部屋へ入ろうとした。  正面に見えるキッチン。  笑ってる妻の姿が見えた。
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