鐘の音を待つ

2/12
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 僕は、まだランドセルを背負っていたあの頃を鮮明に覚えている。 「歌手になりたいの。いつか大きなドームで歌を歌いたい」  微笑みながらそう優子は言ったが、耳が真っ赤で、緊張しながらも僕に告げてくれた将来の夢。 「アイドルの事務所にスカウトされちゃった」  セーラー服のリボンを揺らしながら、僕に駆け寄って教えてくれたこと。夢に一歩近づいた優子の顔は、幸せでいっぱいで、頬がピンク色に染まっていた。  サラサラの栗色の髪に、細い手足。その小さな顔に、まん丸な目、なめらかな曲線を描き、しゅっとした鼻梁、そしてハート型の唇が綺麗に並んでいる。 恋人フィルターがかかっているせいもあるが、優子はこの世界で誰よりも可愛い。  それが、世間にも知られただけだと思っていた。  そして、優子が夢を叶えたことと引き換えに、僕らの仲が引き裂かれるなんて、当時は思いもしなかった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!