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ようこそ魔法学院へ
「お嬢様、いよいよでございますねっ」
入浴を済ませ、私は自室でメイドの少女――ナタリーに髪を梳かしてもらっている。彼女の口振りだとなにかが始まるような雰囲気だ。それとなく正解を導いてみよう。
「あら、なんだったかしら? 心当たりが多くて困ったわ」
「またまたぁ。明日はお嬢様が心待ちにしていた学院の入学式ですよ!」
背後から弾むような声が聞こえる。ナタリーが言うには私はアリスタリア魔法学院というところに入学するらしい。そのうち覚めるのに結構凝った設定の夢で感心してしまうけれど、学校自体にあまりいい思い出がないのもあって少しだけ怖い。
なにかあったら不登校にでもなってやろう。
朝、伸びをすると声が可愛いのはやっぱり気持ちがいい。夢の中で眠り、夢の中で目覚めるという展開も悪くないなとベッドから飛び起きた。
白ブラウスに紺のショートジャケット、胸には赤いリボン、膝丈の黒いスカートが制服のようでいざ着てみると段々と気持ちがあがっていく。手馴れた鼻歌で鏡の前に立ち、お決まりのポージングが冴え渡ると部屋を出た。
「お嬢様、とてもよくお似合いです。我々一同感涙の極み!」
馬車から流れる風景を視界に入れながら、私は執事やメイドから受けた賞賛の声を頭の中で繰り返し自己肯定感を高める作業に没頭する。
木々ばかりだったはずの道が段々開けていくと、正面には物語に出てくるお城のような建物が見えてきた。あれが噂の魔法学院ってやつね。
なんだか少しだけわくわくしてきているから不思議だ。
「フィリア様、お待ちしておりました。わたくしは学院長のルーカスと申します。以後お見知りおきを」
正門前に降り立つと、すぐに白髪頭で白髭を蓄えた男の人に出迎えられた。なにこれ。フィリアお嬢様は学院で一番偉い人が挨拶にやってきてしまうほどのご身分ってわけ?
そうなると、小市民の代表たる私としてはせいぜいボロが出ないように頑張るしかない。
「ご丁寧にありがとうございます。ルーカス様ですね。こちらこそなにとぞよしなに」
スカートの裾を軽く持ち上げお辞儀をする。言葉遣いはかなり怪しいけれど、こんな風に上からいかないキャラで通すことにしよう。
こうして美少女かつ謙虚なフィリアがここに誕生し、心の中でドヤり散らかしていると校舎へ案内された。
話を聞くだけの退屈な式を終え『魔法科Aクラス』と書かれた教室に入る。なんとなく大学の講義室に似通っていてどうやら座席自体の指定はない。
ちらほらと他の生徒達の注目を集めているような気がする中、どこに座ろうか戸惑っていると誰かが私の方に近づいてきた。
「フィリアちゃーん!」
水色の髪を二つ結び――いわゆるツインテールにした、小柄でいかにも活発そうな女の子が私の手を握り上下に振っている。もちろん見覚えなんてなく唐突にクイズが始まったようなものだけれど、私はにっこり微笑みかける。
「今日も元気そうでなによりだわ」
「もっちろん! それがあたしのとりえだし~!」
どこか小動物のような愛くるしさのある子だな。頭を撫でながらそんな風に思っていると、
「こらこら、そんなに走ってはしたないよ。シャロットは本当落ち着きがないんだから」
後からもう一人女の子がやってきて目の前のちびっ子に声をかけた。なるほど、この子はシャロットね。
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