2人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
お似合いですって?
「ちょっといいですか?」
一度小休憩を挟み再びがやがやとしだした教室。すぐに私はライルさんのところへ向かいできるだけ低い声で囁いた。前みたいにドスが効いてないせいか凄みが三分の一程度まで低減している。
フィリアお嬢様はイメージどおり荒事には向いていないようだ。
「やあフィリアさん! なにか僕で役立てることがあるのかな?」
そしてこの男の能天気さときたら。同じクラスだとわかったせいかどことなく砕けた口調になっていて溜息が出る。けれど、あんまり邪険にしていても周囲から見た私の印象が悪くなりそうだし程々にしておこう。
「では単刀直入に。あのことは黙っておいてくださいますか?」
「……あのこととは?」
彼と視線が合った途端、薄いエメラルドグリーンの瞳と長い睫毛にすべての意識を持っていかれ私の口は開いたままになってしまう。それにしても本当キラキラしてるなこのお方。
もし私がホスト狂いの女子なら、今頃即落ちかつ貢物を天高く積み上げていることだろう。
そんなことを考えていると彼は首を傾げ始め、私は気を取り直し咳払いをした。
「ですから私の病気のことですよ。あれは他言無用でお願いしたくて」
「そこまで言うのなら二人だけの秘密にしてしまおうか。でも安心してくれていいよ。僕はこう見えて口の堅い男だから」
「ありがとうございます」
ほっとした私は小さく頭を下げる。
「礼には及ばないさ。ただ、条件があるんだけどいいかな?」
「な、なんでしょう……?」
この世界にはスマホはないようだし、動画を撮って脅すといったことはなさそうだ。高級茶葉買ってこいとか金貨出せあたりで穏便に済んで欲しい。とにかくこの平穏を壊されたくない。
私はひたすらに身構えて相手の出方を伺う。
「そんなに怯えなくてもいいのに。かしこまった物言いをやめてもらいたいのと、病気の治療法を一緒に探させて欲しいんだ」
「この口調はさておき、治療法なんてものはどこにもありませんよ……?」
「いいや、それは探してみなければわからない。僕は君のためできるだけ全力を尽したいと思っているんだ」
ライルさんはにこりとして答えた。どこから来ているのか彼の自信と熱量はものすごく、なにがあっても信念を曲げなさそうなことだけはわかる。力強い瞳に押し切られる形で私は条件をのんでしまった。
「フィリアちゃん、あのライルって人とすっごくお似合いだった! ね、エミリアもそう思うよね!」
「うん、まさに見目麗しい美男美女ってところだったね。彼とはどんな話をしてたのかな?」
「別に大したことではないわ。単にクラスメイトとしての挨拶よ?」
席に戻るとすぐにシャロットとエミリアに出迎えられた。うんうん、なにかの主人公みたいなやり取り一度してみたかったんだよね。これはこれで悪くない。二人から羨望の眼差しを向けられ私は満更でもない気分になっていた。
ライルさんにばかり気を取られてしまったけれど、先生が言うにはこのAクラスは魔力に優れる生徒を集めた上位クラスなのだとか。もしかして私も魔法が使えるってことなのかな?
いよいよファンタジーっぽくなってきて、ここまでわくわくするのは久しぶりのような気がする。これからの日常を想像しているうちに今日のスケジュールはすべて終わっていた。
最初のコメントを投稿しよう!