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助けたい理由
「もしかしてここは初めて?」
半歩ほど先を行くライルさんが振り返り私を見ている。
「どうしてそう思うの?」
「さっきから落ち着かない様子だったからね。君さえよかったら案内しようか?」
ライルさんはあははとどこか少年のように笑った。なんだ、そういう表情もできるんだ。
学院にいる時はもう少し飾った雰囲気があったけど、こっちのほうが親しみやすくて好きかもしれない。
あ、いや。好きというのは人間としてね?
「じゃあお願いしようかな」
「まずは、このまままっすぐ見てまわるのがいいかな。行こう!」
賑わう大通りを歩いているのだけど、すれ違う女の子達が次々振り返っていく。さすがはイケメンクラスメイト様のお通りだ。
そして私もちらちらと見られている気がするのだけど、もしかしてこれはフィリア様のお力?
さておき私は気になるものを見つけては立ち止まり眺める。同じようにライルさんも興味を示してくれたのが少しだけ嬉しい。
彼は合間合間に姿を消すこともあったけれど、それはそれ。
私はファンシーな雑貨店やお洒落なカフェテリアに立ち寄ったりと、すっかりこの街を満喫していた。
「お嬢様、他に行きたい場所はございますか?」
日が落ちかけてきた頃、ライルさんは冗談めいて執事のように尋ねてきた。
「では、見晴らしのいいところがあったら連れて行ってくださる?」
「すべて私めにお任せください。さあ、お手をどうぞ」
そうして私達は街一帯が見渡せる展望台にいる。あれほど賑やかだった街が小さく見えて、これまでとは違った一面を垣間見た気がする。
「わあ、すごくいいところ……!」
「ここはとっておきだからね。誰かに教えることはあまりないよ」
それきりお互いに言葉もなくなり、私はただ遠くの風景をぼうっと見ていた。
「さて、暗くなってしまう前に帰ろうか」
「待って。ライルはどうして私にここまでしてくれるの?」
「君にとって僕の行動はあまりにも唐突過ぎる。フィリアはそう言いたいんだよね?」
「ええ、まあ」
「少し重くなってしまうけど、ごめん」
向かい合っていたライルさんは、私から視線を外すと遠くの景色を見つめはじめた。
「もう何年も前になるけど、母親が流行り病で亡くなってね。その時の僕にはどうすることもできなかった」
相槌に困って黙りこくっていると、向き直ったライルさんと再び目が合う。
「だからフィリア。君は僕がかならず助けてみせるよ」
「ねえ、私の病気のことなんだけどあれは違うの! ライルが心配してるようなことはまったくなくてね」
「強がらなくていいんだよ。ここでは見つからなかったけどこの世界は広いんだ。これからも諦めずにいこう!」
ライルさんの中にはずっと後悔が残っていて、誰かを助けたい気持ちがたまたま私に向いたのは間違いない。
悪い人ではなさそうだけど、それと同時に突っ走っちゃう人なのだろう。
結局勘違いされたままお屋敷まで送ってもらい手を振って別れた。
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