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ちやほやされたい
「フィリア、学院はどうだった?」
お屋敷に帰ってきた私は今夕食をとっている。いわゆる大広間での食事中なのだけれど、長テーブルの反対側にはアウザー――ここでのお父様が座っていて私に微笑みかけた。
しかしこのお父様、無精髭の似合うなかなかのイケおじである。それでいて性格のよさそうなお金持ちなのだから言うことはない。
ただ、この場にはお父様と使用人と私のみ。もしかするとこの家は母親のいない家庭なのかもしれない。
「皆さんよくしてくださって……明日になるのが今から楽しみです」
「それはよかった。アリアもきっと天国で喜んでいるだろうね」
「はいっ」
私としてはこれ以上の返事はできないけれど、アリアというのがおそらくお母様の名前なのだろう。
お風呂を終えてベッドに飛び込む。
そろそろ勘付いてはいるのだけど、これは夢ではないような気がしている。何度も朝と夜を迎えるのは夢の範疇を越えてしまっていると思うからだ。
だったらもう、新しい自分を始めてしまったほうが建設的だろう。なんせ私は自分で言うのもあれだけど、めちゃくちゃ可愛い。
まあ、性格はちょっと残念かもしれないけどもっと自信を持っていこう。
そんなことを考えながら気づけば眠りについていた。
「今日はどういう系統の魔法が使えるのかを見るんだそうだよ。わかりやすく言えば実技のようなものだってさ。本当に二人は先生の説明を聞いてなかったの?」
「えへへ……あたしお昼のこと考えてた!」
翌日の朝、教室にて。
呆れたような声をあげるエミリアに対して、シャロットが愛嬌たっぷりに微笑んでいる。
「恥ずかしながら私もなの」
私はそう続いたけれど、実のところ昨日の人気ぶりを思い出してちょっといい気分になっていた。
あの一件ですっかり名前を覚えられてしまい、ついさっきも声を掛けられていたのだ。
「シャロットはともかくフィリアまで……。そうなると次の時間は四人で組まないといけないのも聞いていないよね?」
「そうなんだ! え、じゃあもう一人どうするー? 誰かお友達とかいればいいんだけど」
「そこで僕が加入するというのは?」
唐突にエミリアとシャロットの間に入ってきたのは、すっかりお馴染みとなりつつあるライルさんなのだけど、私の方を見て問いかけてきた。
昨日の話を聞いてしまったのもあるしここで断るのもね。
「二人さえよければ私は賛成よ。どうかしら?」
「わー、それいいね!」
「もちろんボクも構わないよ」
教室から実習室というところに場所を移した私達は、四人一組のグループとなって集まっている。
目の前には仮想敵と見立てた訓練用の的が立っていて、その姿はどこか不恰好。シャロットと一緒になって笑っているとエルフィーネ先生がやってきた。
「はい、じゃあ次はあなた達ね。さっき言ったとおり、魔法の力でなにをなすべきかをよく想像するのよ」
魔法の覚醒においては使用者自身の意思が強く影響されるそうだ。
シャロットは敵の足止めやかく乱を主とする万能型。
エミリアは敵からの攻撃を引き受ける防御型。
ライルさんはすべての防御を捨て、魔法を宿した剣で道を切り開く攻撃型。
順番にそれぞれの特徴にあった魔法が開花していく。
「次はフィリアさんね。準備はいいかしら?」
私は目をつむって集中する。
まず運動自体に苦手意識があるし自分で動くのは極力避けたい。
そうなると後方支援役なんてのがよさそうだ。もし回復とかできたらパーティーの要みたいになれそうだし、あわよくば皆からちやほやされたい。
そう強く願うと体の中心あたりが燃えるように熱くなり、パンと弾けた。
「なるほど……完全な支援型ね。フィリアさんは思っていたとおり献身的な性格のようね」
先生はいたく感心をしているけれど、少なからずちやほや欲があったことに関しては心の中でごめんなさいをしておこう。
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