ポケットの中のSOS

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「あんた、自分の部屋の掃除をしなさいよ。押し入れの中、いらないものがあるなら出しといて。明日クリーンセンターに持ってくから」  母の言われて、俺は回想をやめる。  大学を卒業し、来年からは社会人になるので、そうしたら今より実家には戻らなくなるだろう。母は俺の自室の押し入れを新たな収納スペースにしようと画策しているのだ。 「んー、後でやる」  ごろんと転んで肩まで炬燵に入れて怠ける俺を見下ろして、母はため息をつく。 「あんた帰ってからずっとダラダラしてるだけじゃない。家のことをひとつも手伝わないし。そんな物臭じゃあ彼女なんて出来ないわよ」  クリスマス前に彼女にフラれた俺は母の何気ない言葉にムッとなる。しかもまだ小言が続きそうだったので、炬燵から抜け出した。 「掃除してくる」  そうぶっきらぼうに言って居間を出て行く俺の後ろで、母がぼそりと呟く。 「夏江ちゃん、噂では妊娠してたみたいなのよねぇ。でも結婚もしてないし、相手が誰なのか分からないみたいよ……」  衝撃的なそれに思わず足を止めかけたが、噂は噂でしかないのかもしれない。真実を知る彼女はもう死んでしまっているし、勝手な憶測を口にするのも憚れる。  俺は冷たい廊下へと出て自室のある2階へと向かう。廊下はとても寒くて、たまらず上着のポケットに両手を突っ込んだ。
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