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「あ、吉屋さん、お疲れ様ー」
「お疲れ様でした」
守衛室に一礼して、俺は仕事場を後にした。
数歩歩き出したところで、仕事場で缶コーヒーを買ってこなかったのを軽く後悔しつつ、俺は最寄り駅へと足早に向かった。
俺の名前は、吉屋聖。
学生時代から部活で演劇にのめり込み、卒業後も小劇団で活動していた。
けれど、一向に芽が出ることはなく、参加していた劇団もいつしか空中分解してしまった。
食いつなぐためにやっていたアルバイト先から、契約社員にならないか、と誘われたのはそんな時だった。
まあまあやりやすい仕事だったし、何より夢だけでは生きていけない。
そんなわけで、俺は俳優の夢を諦めて、一応社会人になった。
職種は……強いて言うなら、『夫婦製造業』とでも言ったところだろうか。
仕事場は、結婚式場。
けれど、プランナーや司会者、ホールスタッフというわけではない。
今までやっていた演劇を十二分に活かせる仕事、そう、新たな夫婦が永遠の愛を誓う場所に立ち会う牧師役を務めるのが俺だ。
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