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突然、あなたは消えてしまった。
ずっと私を苦しめてきた人。
私は、あなたの目が嫌いだった。
悲しそうな、苦しそうな、あなたの視線は、いつも私を不安にさせた。
だから、いつしか、私はあなたの目を見なくなった。
どんな顔だったのか、はっきり思い出せない。
急に消えるなんて、どういうつもり?
私は、あなたにそっくりなアンドロイドの上半身を作り、台の上に乗せた。
1人で逃げるなんて許さない。
さぁ、私の悲しみを、怒りを、受け止めなさい。
怒鳴ってやろうか、いじめてやろうか、と考えながら、私は、あなたにそっくりなアンドロイドの目の前に立つ。
あなたと瓜二つのアンドロイドは、不安げに私を見つめている。
私は消えない憎しみを込めて、睨みつける。
「怖いよ。怖いよ」
アンドロイドは、震え泣き出した。
でも上半身しか作ってないから、アンドロイドは逃げる事も出来ない。
まるで、どこにも逃げる事ができなかった私みたいに。
泣いているアンドロイドは、まるで子供だ。
思い起こせば、あなたは子供のような人だった。
子供のまま、歳をとってしまった人。
あなたも苦しんでいたのかもしれない。
私は、声をあげて泣いた。
アンドロイドは、私を抱きしめると優しく頭を撫でた。
泣きながらアンドロイドの顔を見ると、とても優しい目で私を見つめていた。
私を産んでくれて、育ててくれて、ありがとう。
全て許すから、全て許して。
アンドロイドは消え、美しい百合の花に変わった。
私は、その百合の花を、たくさんの花に囲まれたあなたの胸にそえた。
もう開く事のない、まぶた。
とても安らかな死に顔。
今までで、一番大好きだよ。
あなたは、もう苦しまなくていい。
どうか安らかに眠って。
さようなら...。
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