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所長の担当範囲を見回っていたとき、目の前を小柄な人形が横切った。その横顔に目を疑う。ここに居るはずない人物だったからだ。
すぐさま、人形の前へまわり顔を確かめる。防腐剤で顔色が青白くなってはいたが、その人形は母家囲はすみだった。
「なぜこんなところに!」
答えが返るはずはない。広い場内に並べられたプランターや、床の土壌から生えた果樹を手入れする人形たちの、静けさに包まれるだけだった。
はすみとは高校時代、同窓生だった。大人しいが、ときおり見せる笑顔が愛らしい少女だった。親しくなるのに長い時間を要したが、彼女のことなら何でも知っていると思っていた、彼女もまた快く思っていたはずだった。あの時までは。
はすみは、想いを裏切った。駅の駐輪場の陰で、中田という素行のよくない奴と抱き合い接吻しているのを目撃した。彼女の体を這う掌に激しい嫉妬を覚え、全身が総毛立った。
なぜ俺じゃないんだ! 俺じゃ駄目なんだ!
はすみの人形は、あのころのまま、若く張りのある肌は瑞々しく、ほんのりとした艶の青白さは、かえって美貌を際立たせている。ただ、微笑みだけが失われていた。
無表情で立ち尽くすはすみの服を脱がせ、からだを観察する。一糸纏わぬ姿も、あのころのままのはずだ。張りのある乳房と若々しい下腹部も美しさを保っている。
だが、少女の肌を胸から下腹部にかけ、真っ直ぐに切り開いた司法解剖の痕が痛々しい。解剖医の乱暴な縫合を、医療用パッチが整えている。これは、所長がやったのだろう。はすみのからだを隅々まで観察し、撫でまわしながら美しい姿に修復したのだ。入念な出来栄えをみればわかる、ずいぶんと気に入られているようだった。
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