オートマチック

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 所長は、戻る早々事務所に泊まった。一人寝はさぞかし寂しかったとみえる。こっちも、はすみと再会して以来、悪夢にうなされ眠れない夜を過ごしていた。    久しぶりに帰宅すると、待ち構えていたように奴が再訪した。 「よかった、今日はご在宅なんですね」 「あぁ、刑事さん。所長が戻ったのでね、交代です。刑事さんこそ、今日は何のご用で?」 「そうきますか、厳しいなぁ。わかるでしょう、母家囲(もやい)はすみさんの件ですよ。事件から六年、いまさら有力な証拠や証言が出てくるとは思えない。専従捜査員もいまや私一人だ。閑職の窓際です」  この刑事、この前もだったが捉えどころがなくイライラする。 「それは、迷宮入りということですか?」 「昔ならね。今は時効もなく、地元出身の私は定年まで資料と(にら)めっこかも知れませんな」  「でも、容疑者がいたじゃないですか」 「あぁ、中田(なかた)士朗(しろう)ね。たしかに、女にだらしないチンピラでしたが、殺しができるタマじゃない。事件後、姿を(くら)ましたのも(すね)に傷を持つからでしょう。しかし、殺しとなれば話は別だ。いまさら出て来やしない」 「警察は行方(ゆくえ)を追ってたんじゃないんですか?」  刑事は、ばつが悪そうに頭を()く。 「そりゃあ、被害者と最後に会った人物と思われますからね。いまや公然の秘密でしょうから話しますが……彼女、殺害される直前、情交に及んでたんですよ。そして、死因は窒息ですが、からだには争ったり、乱暴された形跡もなかった。犯人はジエチルエーテルで意識を奪い、まるで被害者を()わるように、優しく窒息させ殺害してるんです。普通、薬品なんか持ち歩きますか? この事件は痴情(ちじょう)のもつれなんかじゃない、計画的犯行です。それも犯人には、被害者に対し並々ならぬ執着があった。私はそう睨んでます」
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