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その前に忘れてませんか?
「あっ!思い出した!!」
ーーーーー
あれから駅近くの喫茶店へ移動した二人。
要の前には温かいコーヒー、桜の前には温かいカフェオレが置いてあった。
「やったー!やっと、思い出さはりましたか!」
「"やっと"は余計やけど…思い出せたわ」
「で、何を思い出したんですか?」
若干前のめりになって聞く桜。
「あんな、ダジャレの神様が…」
と言いながら、お尻を少し浮かして左後のポケットから若干くしゃくしゃになって折り畳まれた婚姻届を出して、テーブルの上に広げる要。
「…って、ダジャレの神様が言っててんけど、ほんまに名前書いて、誰かに保証人になってもらって、今日中に役所に出す?どうす…」
「あの、それよりもっと大事なことを忘れてませんか?」
急に話に割り込む桜。
「ちょ、ちょっと、話まだ終わってへんのに急に何?なんか忘れてる?」
「むっちゃ忘れてますって!」
ずいっと前のめりになって、要に迫る。
「な、な、な、なに?」
あまりの迫力にちょっと気持ち後ずさる。
「名前!お互いの名前、教えあってません!」
バンっと、テーブルを叩いて、勢い余って思わず席を立つ桜をポカンとした顔で見る要。
「あ…あぁ…名前な…うん、名前、大事やな。運命の相手に出会えて、嬉しくって、名前の事、忘れてたわ。ごめんなさい。改めて、僕太田要と言います。二十八歳です。会社員で、エンジニアをしています」
言い終わって、頭を下げる。
「すみません…取り乱してしまいました。私、大月桜と言います。二十六歳です。○○会社で営業事務をしています」
言い終わって、頭を下げる。
「えっと、桜ちゃんって呼んでいいかな?」
少し首をかしげて聞く要。
「はい、もちろん!私は、要さんって呼びますね」
ニッコリ笑う桜。
「うん、イイネ~!うん…名前もお互い分かったし…桜ちゃんどうしよっか?婚姻届…ダジャレの神様の言った通りしてしまう?僕は、このまま名前書いて、友達に保証人になってもらって今日中に役所に提出していいと思ってるねん」
「私は…」
と言い掛けて、話すのをやめた。見つめていた要から視線を外して考えたいのか目を閉じた。要はその様子をじっと見守りつつ、冷めたコーヒーを飲む。
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