RE

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 ふと気配を感じて首を捻ると、エントランスの脇に立ち、こちらをまっすぐに見据える一対の男女があった。思わず小さく声が漏れる。父と、母だった。いつからそこに立っていたのだろう。  こうして肩を並べている両親を見るのは随分と久しぶりのことで、本当に久しぶりのことで、一瞬幻ではないかと自分を疑った。顔を合わせれば互いを罵るばかりで、今やまともに会話すら成立しない彼らが、二人きりで出かけるなんてもう何年も無いはずだった。  夫婦は揃って中途半端な表情をしている。口元や頬のあたりはどうにか微笑みの形状を保っているが、その眼差しはひどく不安げだ。初めてのピアノの発表会で、私より緊張していた遠い日の両親が蘇る。私はそれを笑おうと思うのに上手くいかなくて、きっと自分も同じように、中途半端な顔をしていた。  改めて眺める両親は、なんだかこぢんまりとして見えた。こんなに席が空いてるのだから、座って待っていればいいのに。
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