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娘に向かって、父がぎこちなく片手を挙げた。その、懐かしい仕草に胸を突かれる。押し殺していた感情に色が宿り、瞼の奥で熱を放つ。会いたかった。ただただ会いたかった。あの子に、会いたかった。
滲んだ視界の中で、両親がゆっくりとこちらに歩み寄る。言うべきことが山ほどあるような気がして、やっぱり何ひとつ無いような気もした。
「そんな格好しとったら風邪引くで」
母はそう言って、震える私の肩を上着で包む。ほんのり甘くてうざったい、実家のにおいがした。
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