RE

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 忙しない足音で目が覚めた。世界を割るように、ベッドを囲む灰緑色のカーテンが開かれる。顔を覗かせたのは表情の無い看護師だった。  彼女の指示に従って、恐る恐る半身を起こした。目眩などが無ければこのまま退院できるのだと言う。  冗談みたいに呆気なかった。つい昨日まで、人生をそっくり塗り変えてしまうほどの可能性のかたまりを、この腹に抱えていたはずなのに。  叫び出したいような感傷の裏側に、けれどほんの微かな安堵が隠れていることに気づく。そんな風だから逃げられたのだ。あの男にも、腹の子にさえも。  ぺたんこの下腹部がしくりと痛む。もっと上手くやれる方法はなかったか。どうしてすぐに出血に気づけなかったのか。29年の人生の、もはやどこから悔やめばいいのかわからない。  後から後から湧いてくる自責の念を払うように帰り支度を済ませ、冷たい廊下を踏んでロビーに降りた。
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