1

1/3
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

1

「セリナ!こんなところでうろうろしてて、今日の仕事は終わったの!?」 今日の分として命じられていた仕事が一段落し、ほっと息をついていた私に、お姉様の罵声が響く。 「はい、お姉様……。終わりました」 眦を釣り上げて私を睨んでいたお姉様は、私の言葉にアメジストの瞳をすっと細める。 「そう。それなら、さっさと部屋に引っ込んでなさい。 わかってると思うけど、許可なく部屋から出るんじゃないわよ」 「はい……」 俯きながら答える私を、じろりともうひと睨みすると、美しいドレスと艶やかなプラチナブロンドの髪を靡かせながら歩み去って行く。 お姉様はとても美しい。 田舎子爵家でしかない我がアルビール家だけど、お姉様の美しさは王都でも有名らしい。 それに加え、頭も良いし魔力も高い。 将来は高位の貴族家へ嫁げるのではないかと、両親だけではなく領民からもとても期待されているそうだ。 実際、18歳と結婚適齢期を迎えているお姉様には、色んな家門から縁談話が来ていると聞いている。 「それに比べて私は……。はぁ……」 自室に戻り、姿見に写った自分の姿を見ると、無意識にため息がこぼれる。 そこに写るのは、とても貴族の令嬢には見えない 、メイド服に身を包んだ平凡な娘の姿。 両親それぞれの金髪と銀髪を完璧なバランスで混ぜ合わせたようなお姉様の美しいプラチナブロンドに比べ、お母様の銀髪を強く受け継いではいるものの、艶はなく銀と言うよりは灰色と言った方がしっくりと来る髪色。 瞳の色は何の変哲もない茶色だ。 みんな見目麗しい家族の中で、私だけが平凡な容姿に生まれてしまった。 でも、それだけならまだ良かった。 幼かった頃は、お姉様も今は王都で文官として働いているお兄様も。 今はほとんど顔を合わせることの無い両親だってとても優しかったのだから。 全てが変わってしまったのは、五歳の時。 あの蒼く美しい水晶を手にした瞬間だった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!