屑と玻璃

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   モエカとは、学生時代に地元で知り合った。    学校で1、2を争うくらいの可愛いさで、俺は出逢った瞬間から夢中になった。口説き落として付き合える様になった時は舞い上がったし、結婚するまで駄目だと言うモエカを宥めて、半ば無理矢理に身体を繋げた時は、まさしく天にも登る気持ちだった。誰よりも可愛いモエカは自慢の彼女だった。    しかし、学校を卒業し、誰もが知る有名企業に就職が決まり、都会(まち)に出てきた俺は、自分の世界が狭かったことを思い知る。世の中には、モエカ程度の女はゴロゴロいたのだ。  いや、同じ程度でも、どうにも田舎臭さが目につき出す。そして、あんなに希少な宝石の様に思えていた《カノジョ》がどうにも安っぽいものに見え始めた。  そんな時、出逢ったのがルナだった。  ルナは俺が生まれてから出逢った中で、1番美しい女だった。放つオーラも半端なく、洗練されたルナが歩けば誰もが振り返る。都会での上位ランクの女は、こうも違うのかと知った。  片田舎の学校で1、2を争う程度の女なんて足元にも及ばない。  どんどん冷めていくモエカに対する愛情。  だが、それは仕方のない事だ。学生時代のレンアイなんて、皆そんなもんだろう?  ルナは取引先の社長令嬢で、見掛け通り我儘いっぱいのお嬢様だった。  だが、尽くしてくれるモエカより、自由奔放なルナに惹かれていく気持ちは止められなかったし、止めるつもりもなかった。  ルナと付き合う為に好きなものをリサーチし、好みの人気店を予約して、喜びそうな高いプレゼントを用意し、欲しい言葉を与え、ルナを姫の様に扱った。努力の結果、俺はやっとのことでルナをモノにした。  俺達は来春にも結婚する。全てが順風満帆だ。  『わたし、レンくんの部屋で、レンくんの大好きなもの、沢山作って待ってる 』  「あぁ、分かった 」  モエカは料理を作るのが上手い。ルナがモエカに負けるとしたら、その点だけだろう。だが、まぁ、そんなことは大したことではない。  モエカが何かを言い掛けたが、プツッと通話を切る。  俺は今、ルナのマンションで半同棲状態だ。ルナは今、友人達と独身最後の海外旅行に行っていた。  長く鮮やかに飾られたネイルに彩られた指が、俺のネクタイを掴んで引き寄せる。  『私が居ない間、ショコラのことをよろしくね 』  耳の折れた、主人とそっくりな我儘な猫の世話を頼んで、コーラルベージュの甘い口唇を重ねてきたルナは、明後日に帰って来る予定だ。  俺の方は、今夜、仲間達が集まって祝ってくれている。主役がいつまでも席を外す訳にはいかない。  やはり、明日はきちんとモエカに話しをしなければと覚悟を決める。  俺はもう、舌打ちを隠さなかった。  
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