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「ただいま 」
久し振りに自宅の玄関を開ける。鍵は掛かっていなかった。
「モエカ、いるのか? 」
昨日は朝まで飲み明かし、一旦、ルナのマンションへ帰った。今日のことを考えたくなくて、飲み過ぎてしまった気がする。
愛情が無くなっても、情までもが全く無くなってしまった訳ではない。俺はそこまで薄情ではない。
それが証拠に、涙を零すモエカの最奥に初めて全ての欲望を吐き出した時のことだって忘れてはいない。あの時のモエカの身体はどんな菓子よりも甘く、誰よりも愛しかった。
これ以上、先延ばしにすることは出来ないが、話をする前に最後にもう1度、抱いてやってもいいかも知れない。
「モエカ? 」
何故か返事はなかった。けれど、リビングからは腹の中を擽る匂いが漂っている。
狭い部屋だ。隠れる場所などないが、一通り部屋を探す。しかしモエカの姿はない。
買い物に行っているのか? コンロに掛けられたシチュー鍋の小さな火をチラリと見る。
足りないものでもあったのだろう。自分も帰るのがこんな時間になってしまったのだし、時間が読めなかったというのも分かるが……。
「それにしても鍵は開けっぱなし、火は点けっぱなし。何考えてんだよ。アイツ、頭回ってんのか? 」
相変わらず、イラつかせる女だ。バカにした口調で独りごちると、ソファーに上着を投げ付ける。
モエカは田舎育ちだからか、本人の気質からか驚くくらいに純粋な所があった。そこからくる素直さ、無防備さ。そう、こちらが呆れる程に。
俺はまた、舌打ちをする。まぁ、直ぐに帰って来るだろう。最後だから怒るのは控えよう。
気持ちを切り替えてローテーブルに目をやると、その上には様々な料理が並べられていた。俺の好物ばかりだ。
思わず、喉がゴクリと鳴る。朝から何も食べていないのだから仕方がない。
揃えられたカトラリー。俺は、その前にドカリと膝を立てて座った。
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