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「桜二、私を頼ることはもうできないよ。これからは、自分の力で働いて生活をしてゆくの。真面目にやっていけば、そのうち道がまた開けるわ」
そんな私の言葉に、王子が面食らった顔を作った。
「僕に労働が似合わないのは千春も知っているだろう?だから、千春は僕を喜ばせようと、代わりに必死に養ってくれたんじゃないか。そのころの気持ちはまだ残っているだろう?」
「もうあなたの魔法から目覚めたの。だから…」
と私が言いかけたところで、小瓶3本抱えた陽さんがずかずかと桜二の後方に迫ってきた。
そして、
ドカッ―――
と一発、桜二に蹴りを入れてしまった。
当然、受け身の取れない桜二は前につんのめって転んでしまった。
桜二が顔をあげると、おでこに”たんこぶ”が出来ていた。
そしてそれを撫でながら陽さんに文句をいった。
「な、何をするんだっ。あ…れ君は…」
王子は何かを言いかけたけど、陽さんが遮った。
「これで借りは返せたぞ。なにか忘れていると思ってたら、これだったな」
陽さんは、あの時の”たんこぶ”の仕返しだとばかりの顔をしていた。
(陽さん、たんこぶの件、まだ怒っていたんだ)
小瓶を片腕に抱えた陽さんは、もう片方の腕を私の腰に回して、ギュッと抱きしめてきた。
そして、怒りのこもった顔で桜二を見下ろした。
「俺の彼女に手を出すな」
と見事に牽制してくれた。
桜二は面食らって驚いている。
「彼女…、って千春、嘘だろう? もう他の男とできているのか?」
「勝手に他の女と結婚したお前に言われたくはないぞっ」
私の代わりに陽さんがビシッと答えてくれた。
「また千春に近づくことがあったら、次は容赦しない。きちんと覚えておけっ」
陽さんの圧に押され切った王子は何も言い返せずに睨みつけていた。
「千春、用事は済んだ。帰ろう」
「うん…」
陽さんが私の手を取る。
そして私は軽く桜二に振り返った。
「桜二。私、ものすごく幸せなの。だからあなたも、前を向いて頑張って」
「ち…はる…」
呆然とその場に座り込んだ桜二はそれ以上何も言ってはこなかった。
私は桜二に最後のエールを残して、陽さんと手を繋なぎその場を後にした。
私たちは夕日に向かって歩いて帰る。
「陽さん、ありがとう。すごく嬉しかった」
「彼女に付きまとう男を追い払うのは当然」
「うん。でも…最後に王子に会えてよかった」
「なんでだよ?」
「だって、陽さんとの幸せな姿を見せつけてやったもん。これが一番の”復讐”だよ」
「…そうだな」
陽さんが絡ませた指に力を込めてきた。
私もそれを受け取る。
愛されているという安心感でいっぱいになる。
私たちは辛いことを乗り越えたからこそ味わえる、極上の恋愛を手に入れることができた。
きっとこれが、最高に幸せな復讐方法。
ー END ー
\最後までお読みいただき感謝いたします/
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