夫と妻と間男と間女が異世界に召喚されて勇者パーティーを組んだ結果

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 僕の妻は不倫している。  なんて事を言うとまるで妻がとんでもない極悪人だと考える人もいるかもしれないが、それは全くの的外れである。  僕、根本治樹と妻の愛里は互いに不倫を認め合っている夫婦だ。  絶対に不倫を認めない夫婦もいるだろうが、互いに自由な恋愛を認めている夫婦もいる。  前者の方が多数派かもしれないが、少なくとも僕達は相手に不倫をしても構わないと伝え合っている。  よそはよそ、うちはうち。  だから僕も不倫をしている。  妻に対して夫に対して、それでは不誠実ではないかと言われるかもしれないが。  僕達にとってはこれが自然な夫婦の形だし、周りからどうこう言われる筋合いはない。  但し僕達の不倫にもルールはある。  お互いに不倫を認めているからといって完全に放任主義では流石に無い。  僕達が定めた不倫のルールは3つ。  1つ、不倫相手に本気にならない事。  1つ、不倫相手に必ず既婚者である事を伝えて納得の上で付き合う事。  1つ、肉体関係を結ぶ際は必ず避妊をする事。  ひとつ目はあくまでも不倫は不倫として遊び、例え不倫相手との仲が深まっても帰って来る場所は夫であり妻であると心得て遊びなさいと。  ふたつ目は不倫相手にもその事を伝えて遊びであると理解させ、面倒な痴情のもつれが起きないように、面倒事を家庭に持ち込まないようにと。  みっつ目は子供を作る為の行為は夫婦間でのみ行い、性感染症の予防も確実に行うようにと。  この3つのルールを確実に守ると約束して僕達夫婦は互いに不倫を認め合っていて、休日にはお互いに不倫相手とのデートを楽しんだりもする。 「「あっ、、、」」  思わず驚きが声に出てしまった。  この広い東京の、それも人で賑わうお台場で。  まさか不倫相手とデート中の妻と鉢合わせるとは想像もしていなかった。  それは妻も同様で、彼女も僕と全く同じリアクションをとっている。  僕達はお互いに不倫相手と仲睦まじく手を繋いでいる。  妻の不倫相手を見れば髪をツーブロックにした若くて背の高いイケメンで、見た目には僕が完封負けを喫するぐらいのハイスペックに見える。  きっと僕は今、驚きと気まずさで何とも形容しがたい微妙な表情を浮かべている事だろう。  対して妻も僕の不倫相手に目を向ける。  僕の不倫相手は小柄で清楚な印象で可愛らしく、まだ大学生なので若い。  はっきり言って僕みたいなアラサーのフツメンと不倫関係になる女の子には見えない。  妻も今の僕と映し鏡のように非常に微妙な表情を浮かべている。  数秒だけ立ち止まってしまったが、僕達は軽く首を横に振って不思議そうな顔を浮かべている不倫相手に笑顔を向けて擦れ違った。  デートを終えて家に帰れば、あんな偶然もあるんだねと笑い話になる。  そんな些細な出来事になる筈だったのに。 「勇者様方。どうか魔王を打倒して世界を救って下さいませ」 「「どうしてこうなったぁぁ!」」  僕達は擦れ違いざま、足下に青白く発光する魔法陣が現れて光に包まれ。  気付いたらドイツのバイエルンにある有名なお城の王座の間みたいな所にいた。  目の前にはたっぷりと口髭を蓄えた壮年の男性が立っていて、その身形は赤を基調にした明らかに豪奢なもの。  更には頭に王冠を載せているので、もう王様確定と言って良いだろう。  そんな王様から魔王を倒してくれだなんてアマチュア作家が書いたライトノベルの主人公みたいな事を言われたのだから、失礼を承知で思わず声を上げてしまったのも仕方が無い。  だって僕と妻、または僕と僕の不倫相手、または妻と妻の不倫相手の組み合わせだったならまだしも。  僕と妻と間男と間女で異世界に召喚されてしまったのだ。  そりゃ変な声だって出るさ。  これからどうするんだよって思うもの。  声を上げてしまった息ぴったりの僕達夫婦以外は事情を知らないのでポカンとしている。  僕達は失礼を詫びて話を進めて貰った。  さっきので無礼討ちとかされなくて本当に良かった。 「それでは一人ずつこちらの石板に触れて下さい」  色々と、まあ出来の悪いライトノベルで語られる様な異世界召喚もののテンプレートな説明が終わると高さ1メートル以上もある重そうな石板が運ばれてきた。  屈強な騎士4人がかりでも酷く重そうに運んでいたので、だったら石板の置かれている場所に移動した方が楽だったのではないかと思わなくもなかったが。  こちら側を正面にしてしまったので王様が態々王座から立ち上がってこちら側に回り、興味深げに僕達に目を向けているが。  どうやら石板は所謂ステータスの鑑定に使われるらしく、まずは間男から手を触れると不思議な事に石板に文字が浮かび上がる。 「おお!本物の勇者様だ!」  地球上の言語ではないと容易に想像出来る文字だったが、何故だか僕にも読む事が出来て間男の職業の欄には確かに勇者と書かれていた。  誰だか知らないが眼鏡のおじさんのリアクションを見るに勇者というのは珍しいものなのだろう。  そんなこんなあって全員の職業が確定。  間男 勇者  間女 治療師  僕 盗賊  妻 盗賊  いや、夫婦で盗賊って犯罪臭しかしないんだけれど!?  ここで言う盗賊は別に人を襲って金目の物を盗んだりする盗賊ではない。  ゲームなんかでよくある敵の気配を察知出来たり、罠が仕掛けられているのに気付けたりって所謂ジョブの方だ。  潜在的に盗人の性質を持ってるって訳ではないので勘違いしてはならない。  と、必死で自分に言い聞かせている。  兎にも角にも僕達4人は異世界から召喚された勇者の一味としてパーティーを結成させられる流れとなった。  夫と妻と間男と間女。  嘗てこれほどまでに気まずい勇者パーティーが存在したのか、僕は知らない。 _______  お台場で恋人とデートをしていたら偶然にも夫と遭遇しちゃった。  夫の隣には不倫相手の恋人がいて、私と夫の間には気まずい空気が流れた。  私の恋人からすれば知らないカップルだし、それは夫の恋人からしても同じだっただろうから不思議そうな顔をしていたけれど。  それだけだったらまだ良かった。  私達はお互いに不倫を認め合っている夫婦だし、街でバッタリ会ったとしても家に帰れば平常運転の日常に戻るのだから。  だから夫の恋人を見て随分若くて可愛い子を引っ掛けたなぁ気持ち悪っ!なんて思いながらも何も言わずに擦れ違って「知り合い?」「ううん、人違いだったみたい」なんてありふれた会話を恋人とするんだろうなって考えてた。  それなのに。  まさか異世界召喚だなんて理解出来ないものに巻き込まれるだなんて。  それも夫と夫の恋人まで一緒になって巻き込まれるだなんて想像の埒外過ぎるわよ。  王様から言葉を掛けられて石板で鑑定とかいうのをやって、私の恋人は勇者だなんて言われて見るからにテンションが上がっていた。  若い男の子だし、こういうゲームみたいな展開に喜んでしまうのは仕方が無いかな。  横目で見たら夫は自分が勇者だとでも考えていたのか悔しそうに歯噛みしていた。  悔しかろう悔しかろう。  そして私も鑑定をして。  自分の鑑定結果には肩を落としました。  はい。  夫も鑑定結果に肩を落としてました。  はい。  夫婦揃って盗賊だなんてね。  恋人が「職業が一緒だなんて仲良くなれそうだな」なんて言ってたけれど、もう十分仲は良いんだよ。  だって夫婦なんだもの。  私達は王城にそれぞれ部屋を一つずつ与えられて、魔王を倒す為の訓練が始まった。  金髪碧眼で漫画の主役みたいなイケメン騎士団長さんが言うには、異世界から召喚された人は、この世界で生まれた人よりも潜在能力が高くって強くなれる可能性が高いんですって。  だから盗賊の私や夫も訓練をして勇者を支えて欲しいと言われた。  夫が妻の不倫相手の間男を支えるだなんてウケる。  私達は1年も訓練を重ねて。  地球には存在していない魔物なんかも倒して。  4人で人数差10倍以上の騎士団を相手に互角に戦えるようになってから魔王討伐の旅に出た。  この1年の間、私と夫が二人きりで話す事は無かった。  そもそも私はどうして夫を選んだのだろうと考える。  私が夫に求めているのは安定。  それは金銭的な安定ではなくて心の安定。  私は基本的に一人の男と長く付き合っていけるタイプではない。  どれだけ顔が良くても、背が高くてスタイルが良くても、お金持ちで好きな物を好きなだけ買って貰えても、前世は高尚なお坊さんだったんじゃないかってくらいに優しくて出来た人だとしても。  3ヶ月か、長くても1年もすれば気持ちが冷めて男を変えたくなる。  そんな性質の悪い性格をしている。  そのくせ誰かが傍にいないと不安で寂しくって堪らなくなるのだから、余計に性質が悪い。  夫も私と同じで性質の悪い性格をしている。  私達はどこまでも似たもの同士で、相手の考えている事を深く理解し合える。  私達夫婦は互いの不安をふっと埋められる存在として。  互いの心の安定剤として夫婦という、きっと最も強い結びつきを選んだ。  そんな似たもの同士の二人だから、旅の最中に遭遇した魔物と戦っている時に夫が何を考えているのか私には良く分かる。 『自分以外の誰かが1人死んでくれねぇかなぁ』  自分から殺したり戦いに手を抜いたりはしないだろうが、それがこの1年以上に及ぶ気まずい状況を解消する一番簡単な手段であると、夫は間違いなく考えているだろう。 _______ 『自分以外の誰かが1人死んでくれないかしら』  魔物との戦闘の最中。  妻がそんな事を考えているのがビシビシ伝わって来る。  1年以上も夫と妻と間男と間女が共に行動するとかいう尋常たらざる気まずい状況を味わい尽くしたのだから、そんな残酷な考えが頭を掠めるのも仕方が無い。  実際に僕も同じ事を考えているし。  妻はハッキリ言って男に飽きるのが早い。  それは僕も同様で。  僕だって女に飽きるのが早いのだから人の事を言えた立場ではないのだが。  しかし異世界召喚という状況がそうさせているのか、妻と間男の関係は未だ良好に思える。  そして僕も、自分でも驚く事に不倫相手との関係は未だに良好だ。  さて、ここで問題だ。  僕も妻も思いの外、不倫相手との関係が上手くいってしまっている。  しかし僕達夫婦が別れて互いに不倫相手と結ばれるのは今の所無いし、多分未来永劫無い。  それだけ僕達は互いが互いを必要とし合っているのだ。  それを踏まえた上でクエスチョン。  Q.今の4人の関係を円満且つ可及的速やかに解決する手段は何でしょうか?  A.誰か1人が死ねば良い  残酷な考え方かもしれないが、これが最も確実なのではないかと僕は確信している。  例えば僕にとっては理想的な、間男が死んだ場合。  残るのは僕と妻と僕の不倫相手の3人。  間男さえいなくなればパーティー内での気まずさは随分と軽くなるだろう。  あとは僕が上手く不倫相手をコントロールすれば良いのでどうとでもなる。  僕の不倫相手が死んだ場合は、妻に間男をコントロールして貰って僕は旅の途中で寄った街や村で正々堂々と不満を解消すればいい。  それならば妻の不倫相手と毎日顔を合わせる以外は日本にいる時と変わらない。  僕を差し置いて妻に気配りをする間男を傍で見なければならないのは癪に障るが。  最後に、考えたくはないが妻が死んでしまった場合は。  単純に僕と不倫相手の関係が継続されて間男は別で彼女を作れば万事解決だ。  まあ間男が死ぬのは戦力的に大きなダウンだが、僕的にはそれが理想かな。  なんて事を考えながら今日も僕達は元気一杯に旅を続けている。 _______  いやぁ誰も脱落しないわね。  夫がそう考えているのと同じ様に。  私も『誰か死んでくれないかしら』と考えている。  しかし夫の恋人が儚げで脆そうなのに全然死んでくれない。  あの子が死んでくれたら私としては1番都合が良いのだけれど。  あの子は私の夫が少しでも怪我をすると飛んで行ってかすり傷なのに治癒魔法を使う。  そんなの魔力の無駄遣いでしかないのに。  大体その男は私の夫だぞ?  どうして妻の私を差し置いてお前が夫を献身的に支えている感を出しているんだ。  今まで随分と奔放であった自覚はあるけれども、夫を支えて来たのは妻の私なのに。  おっといかんいかん。  夫の不倫相手に嫉妬してしまうだなんて私らしくもない。  私だってあからさまに恋人に気を使って貰っているのだから、こればっかりは仕方が無い。  だって私達が夫婦だと話していないし、そんな素振りも見せない様に気を付けているのだから。  魔王を倒せば日本に戻れるという話なのだし、日本に戻れば私達は元の関係性に戻れる筈だ。  きっと私は恋人に飽きて次の恋人を探すだろうし、夫もあの子と別れて次の恋人を探すだろう。  だから今は我慢の時。  頑張って強くなって、早く日本に帰りたい。  そんな風に思ってしまう今日この頃。 _______  今、妻の肩を抱いて庇ったのって余計じゃない?  間男が妻に過保護な気がして不快指数の高い今日この頃。  いや、良いんだよ?  僕と妻が夫婦だって事は秘密にしているのだし、それを匂わせる様な発言も行動をしていないのだから気付ける筈もない。  だから間男が恋人である妻の前で格好付けたくなる気持ちはわからないでもない。  わからないでもないのだが。  なんか最近スキンシップ多くない?  何だろうな。  何だかわからないけれども不愉快。  不愉快です!  大体夫の目の前でイチャつく妻を1年以上に渡って見せ付けられるってどんな壮大なNTR小説だよ。  確かに不倫は認めているんだけれども。  認めてはいるんだけれども!  モヤモヤするんだよなぁ。  何かモヤモヤするんだよなぁ。  ずっとモヤモヤしてるんだよなぁ。  早く魔王を倒して日本に帰ろう。  そうしよう。 _______  一刻も早く魔王を打倒す。  そんな一組の夫婦の活躍もあって、旅の最終目的である魔王城手前の街まで辿り着いた勇者一行。  彼らが旅に出てから既に3年の時が過ぎ、未だ夫婦はパーティーの中での気まずさという心的な負荷が掛かり続けていた。  しかし彼らが止まる事はない。  何故なら彼らは日本に帰って元の生活に戻る事を心の底から渇望しているのだから。  そして4人は魔王城へ向かう日の朝を迎えた。  勇者パーティーはいやらしい話、魔物の素材を売却して非常に金があるので街で1番良い宿に泊っている。  部屋を出た所でたまたま顔を合わせた根本治樹、愛里夫妻は軽く挨拶だけして一緒に食堂がある1階へと向かった。  この3年、城での訓練も含めると4年あまり経ち。  多少なら会話や共に行動をする事も解禁していたふたり。  ふたりは付かず離れずの微妙な距離感で1階へと下り。  席に案内されると既に勇者と治療師が隣り合って座っていた。  今までは治樹の隣に治療師、愛里の隣に勇者と決まった席順で座っていたので、不思議に思いながら席に着いた。  給仕係が朝食を運んで来て朝から豪華な料理が並ぶ。  治樹と愛里が殆んど同じタイミングで、同じ料理に手を付ける息の合ったコンビプレーを披露した直後。  勇者から思い掛けない言葉が発せられた。 「俺達、結婚する事にしたんだ。  ふたりには申し訳ないんだが、俺達はこちらの世界に残ろうと思う。  こいつのお腹には俺の子供がいる。  だから一緒に魔王を倒しにはいけない。  すまない」  そう言って頭を下げる勇者と治療師。 「ああ、そう」 「そうなのね、おめでとう」  治樹と愛里は当たり障りのない言葉で勇者と治療師を祝福して。  食事と旅の準備を済ませるとふたりで宿を出た。 「最近馬車移動が多いし、ゆったりした服を着ていると思ってたけれど、まさか妊娠してたとは気付かなかったな」 「そうね。お腹の子供って実は貴方の子供なんじゃないの?」 「避妊出来なくてご無沙汰だからな。  俺の子供ではないだろう」 「そうなの。律儀なのね」 「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」  気兼ねなく。  まるで日本にいた時の様に、ふたりは自然に会話を交わす。  そしてふたりは街を出て。 「それじゃあサクっと魔王を倒して日本に帰りますか」 「ええ、そうしましょう」  あまりにも日本に帰りた過ぎて既に勇者よりも強くなっていたふたりの盗賊によって魔王は討たれ、世界に平和が訪れた。  魔王討伐を成し遂げたふたりの盗賊は元の世界へと帰還を果たし。  4年間も行方不明となっていたので、大変な手続きや事情聴取が行われた。  しかし3ヶ月もすれば平穏な日常へと戻る事が出来た。  そして。 「愛里立った!樹里が立ったぞ!」 「見てるわよ。隣にいるんだから一々言わなくてもわかるわよ」  夫と妻と間男と間女。  そんな不思議な異世界召喚に巻き込まれた夫婦は、ふたりの間に新しい命を授かり。  死がふたりを分かつまで幸せに暮らしましたとさ。  めでたしめでたし。
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