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19 本懐
昨夜とはまったく違う状態におかしくなりそうだった。一度目や二度目ともまったく違う。あまりにも強い快感は苦しいのだと初めて知った。
両手首を縛られたままズボンと下着を奪われた僕は、両足をノアール殿下に持ち上げられすぐさま中に押し入られた。いきなりの行為でも問題なく受け入れられたのは、僕の尻が想像以上に濡れていたからだろう。僕自身も早く中を埋めてほしくて抵抗する気は一切起きなかった。
殿下のアレを体内に感じた瞬間、僕は呆気なく吐精していた。そのまま何度も突き上げられたような気がする。意識が途切れ途切れになっても、気持ちよさに心が満たされていくことだけはわかった。
「あぁ、いい香りだ」
うつ伏せになった僕に殿下が覆い被さっている。手首の紐はいつの間にか外されていて、服も首飾りも身につけていなかった。そんな素肌の首に殿下の吐息が触れている。
「んっ」
熱い息に背中がゾクッとして、ナニが入っている場所にギュッと力が入った。そんな僕を労るように殿下の唇が肩胛骨に触れる。熱くて柔らかな唇が何度かそこに吸いつき、それからゆっくりと首のほうへと近づいた。ゆっくりゆっくり動き、そうしてうなじにチュッと触れるのを感じた。
「ふぁ！」
それだけで高い声が漏れてしまった。慌てて口を閉じようとしたが、すぐに濃くて甘い香りが頭一杯に満ちてきて力が抜けてしまう。そのまま何度もうなじに口づけられ、僕のナニからプシュッと何かが漏れたのを感じた。
「やはり発情したランシュは、いつも以上に可愛い」
「んぅ」
「男を抱いたのはランシュが初めてだったが、たまらないな。Ωだからか……いや、ランシュだからか」
「ふ、んぅ、んっ」
「あれほど小さかった穴がこんなに広がる様子は、いっそ醜悪にも見えるはずなのに……」
「ふぁ！」
背中を覆っていた熱が離れ、尻たぶを思い切り割り開かれた。あまりの強さと恥ずかしさに上半身が完全にベッドに崩れ落ちる。尻を突き上げるなんてとんでもない格好だと思ったのも一瞬で、すぐに濃いミルクの香りに包まれて何も考えられなくなった。
「わたしを受け入れている様子は、とても淫らだ」
「ひん！」
奥を突かれて尻が跳ねた。それを押さえつけるように殿下のアレをお腹の奥にねじ込まれる。
「今回は一番深いところにすべて注ぎ込もう。三度目の発情だから今度こそ子ができるかもしれない。いや、子はいつでもいいんだ。ランシュがわたしのそばにいてくれさえすれば、それだけでいい」
押し潰されそうな状態と不安定な体勢が苦しくてたまらないのに、殿下の言葉だけはしっかり耳に入ってくる。そうして理解した途端に心が喜びに打ち震えた。
（殿下が、僕をほしがってくれている）
子がほしいと、僕がほしいと言ってくれた。想像すらしていなかった言葉に体までもが震え出す。
（僕は、やっぱり殿下が好きだ）
いや、好きなんて生ぬるい言葉じゃ足りない。こんなにも心が震えて、嬉しすぎて息が止まってしまいそうなほどの想いを抱いている。
（これで、ようやく僕と殿下は……）
そこまで思って、そうじゃないことに気がついた。
（違う、まだだ）
殿下と本当の意味で結ばれるには首を噛んでもらわなくてはいけない。僕の香りを殿下だけのものにしてもらうためにも、殿下に噛んでもらう必要がある。
（そうだ、僕の香りを殿下だけのものにしなくては）
枕に埋もれていた頭を何とか動かした。ぷはっと息を吐き、それから声を絞り出す。
「首……首を、噛んで、ください」
今度こそ噛んでほしい。逃げることは許さないと言うのなら、逃げられないように噛めばいい。そうすれば僕はこの先もずっとノアール殿下のそばにいられる。それが僕の心からの望みで、Ωとしての僕の覚悟だ。
「ランシュ」
「首を、噛んで、おねが、い、だから、噛んで、」
殿下の動きが止まった。まさか今回も噛んでもらえないのだろうか……そう思ったら全身が締めつけられるように苦しくなった。胸の奥がざわざわして今度こそ息ができなくなる。
同時に、こんなにも望んでいるのに叶えてもらえないのかとお腹の奥がカッとなった。ようやくαを誘う香りが出せるようになったのに、そんな僕を前にしても噛もうとしないなんてあり得ない。僕の香りを嗅いでいるのに噛まないなんて、許せるはずがない。
強烈な感情が体の中でぐるぐると渦巻いた。僕がこれだけ熱望しているのに、なぜこのαは噛まないのかと腹が立ってくる。僕を噛むべきαなのに、なぜ噛まないのかとカッとなった。
「……っ。なんて強い、香りだ」
「噛んでって、何度も、言ってるのに」
「ランシュ」
「この前も、あんなに願った、のに」
「ラン、」
「さっさと、首を噛め。それで僕を、殿下だけの香りに、しろ……っ」
言い終わるのと同時に、殿下のナニがズボッとお腹の奥に突き入れられた。一瞬息が詰まったが、そんな乱暴な動きさえも気持ちがよくて腰がブルブル震える。
（そうだ、αの本能のままに、僕を噛めばいい）
今度こそ噛まずにはいられないはずだ。期待に鼓動を速くしながら、お腹の奥がどんどん押し開かれていく感覚にうっとりした。
「ランシュは本当におもしろい。こんなふうにαを煽るΩがいるとはな」
言葉なんて必要ない。そんなことはどうでもいいから早く噛めと強く願った。
さぁ噛め、早く噛めと体中が訴えている。噛まれることをねだるみっともないΩだと思われてもかまわない。どんな手を使っても首を噛ませたいのだと、その気持ちだけが僕を支配していく。
「んっ」
急に尻のあたりが苦しくなった。太いアレがさらに太くなっているような奇妙な感じがする。
「まさかノットまで現れるとはな……。これで噛めば、間違いなくランシュはわたしのものになる。本当にいいんだな？」
（まだ言うか！）
噛めと何度も言っているじゃないか。そもそも逃がさないと言ったのは殿下だ。Ωの僕が噛めと言っているんだから、αの殿下はさっさと噛めばいい。いまは噛むことだけを考えればいい！
「あぁ、ますます香りが濃くなってきた。それほどわたしを求めてくれているのに、噛まない選択肢はない。……いや、本当は最初から噛みたくて仕方がなかった。それをどれだけ我慢したことか」
「っ」
うなじに殿下の唇が触れた。それだけで肌が粟立ちゾクゾクする。噛まれたい気持ちが先走って首筋がぞわぞわした。早くと願うあまり心臓がバクバクし、期待が強すぎて窒息しそうになる。
「んっ！」
うなじに硬いものが触れた。殿下の歯に違いない。今度こそ求めるαに噛んでもらえる。そう思うだけで興奮のあまり体の奥がゾクゾク震えた。
「……ランシュ」
「！」
名を呼ばれた直後、つぷ、と硬いものが肌に食い込んだ。痛みを感じたのは一瞬で、うなじから背中に向かってゾクゾクゾクと痺れのようなものが下りてくる。思わず体を震わせたとき、硬質なものがさらに肌を突き破るのがわかった。
「ひっ」
ずぶ、ぐっ、ぐぐっ、そんな音が聞こえたような気がした。恐怖にも似た痛みを感じたのは一瞬で、すぐに「あぁっ」と甲高い声が上がる。
「ぁふ……ふぁ、ぁ……」
首からゾクゾクした痺れが体中に広がり、頭の芯まで痺れさせた。全身が痙攣しているように震えている。同時にワインに酔ったような感覚にも襲われた。体中に満ちてくる多幸感に頭も心もふわふわしてくる。
（僕の何かが、変わっていく、みたいだ）
自分が感じているこれが何なのかわからない。だが、この感覚は一生忘れないだろう。
（これで僕は、殿下だけの香りに、なった）
ふわふわしながらも、それだけははっきりと理解できた。
「ノットが現れた状態で噛むことになるとはな」
いつの間にか殿下の唇がうなじから離れている。それなのに時々濡れた感じがするのは口づけか、もしかして舌で舐めているのだろうか。酩酊しているような状態なのに、うなじに気配を感じるとふわっと意識が浮上する。
「いまやノットが現れるαはほとんどいないと聞いていたが、まさか自分に現れるとは思わなかった」
「ん……」
「少し、腹が膨れてきたか？」
「んふ、」
臍の下あたりを撫でられて、うなじとお腹の奥がゾクゾクした。思わず力が入ったお腹の奥で、殿下のアレがびゅうびゅうと吐き出しているのを感じる。
「ノットが小さくなるまで抜くことはできない。元々αは量が多いと言われているが……すべてをここに留めるのは難しいだろうな」
「ふ、んふ、んぅ、」
「これなら子ができるかもしれないが……。いや、たとえできなかったとしても、わたしの妃はランシュだけだ。他のΩを抱くつもりはないし必要もない。このことは陛下に必ず納得していただく」
「ぁう、ふっ、んっ」
殿下が話していることはわかったが、内容を理解することはできなかった。ミルクの香りが強くなってきたせいで急激に意識がぼやけていく。苦しいほど広がっていた尻穴の状態もわからなくなり、気持ちいいという感覚だけが僕を支配した。
そんな状態でも、うなじに触れられる瞬間だけは意識がふわっと浮上した。触れられるたびにゾクゾクしてお腹にギュッと力が入る。そうすると殿下のナニがますますビクビク震えて、より一層吐き出す勢いが増すような気がした。
僕はそれを目一杯感じながら、深い悦びに身も心も委ねていった。
ぱちりと目が覚めた。寝つきもいいが寝起きもいい僕にとってはいつものことだ。
だが、今朝は少し違う。むくりと起き上がり、自分の右手を後頭部に回した。フワフワに乱れた髪の毛に触れてから、ゆっくりと手を下ろしていく。生え際にたどり着いたとき一瞬手が止まったが、そのままうなじのあたりにそっと手を這わせた。
「……これが噛んだ痕、か……？」
改めて指先で撫でるとでこぼこしている。痛くはないが、少し熱を持っているような気もした。
「よかった」
心底そう思った。目が覚めた瞬間、噛んでほしいあまり夢を見たのではないかと思った。そうだとしたらとんでもなく淫乱な夢を見たことになるが、そう思ってしまうくらい不安だった。
しかし夢じゃなかった。以前は何もなかった肌に、噛まれた痕に違いないでこぼこがある。何度も指で撫で、ようやくホッとした。
安心したからか、自分が裸のままだということにようやく気がついた。服を着なければと思ったが、やっぱりうなじが気になってすりすりと撫でる。
「αの前で噛み痕を撫でるなど、誘っているようなものだぞ？」
「え……？」
隣から声が聞こえて驚いた。視線を向けると、若干寝乱れた様子のノアール殿下が横たわっている。腰から下は掛け布団で隠れているが殿下も裸のままだ。思わず「やっぱり彫刻のような造形美だな」と、惚れ惚れしながら見つめてしまっていた。
「ランシュ？」
「あ、いえ、誘ってはいませんが、殿下がしたいと、おっしゃるなら……」
不躾にも殿下の裸を見つめていたのだと気づき、慌ててそんな言葉を口にする。「さすがにいまのは変だったか」と思い、改めて殿下を見れば口元が笑っていた。
「殿下？」
「くくっ。いまのは冗談だ。噛み痕を撫でても誘ったことにはならない。いや、二人の間の約束事として決めてもいいが」
「……やめておきます」
しばらくの間は噛まれた痕が気になって触ってしまうに違いない。そのたびに“誘っている”ということにされては僕の体が保たない気がする。
そんなことを考えたからか、尻のあたりがぬるっと濡れたような気がした。慌ててきゅっと引き締めたが、中からトロトロしたものがあふれてきて「は？ え？」と戸惑った。
こぼれ落ちたものに心当たりはあるが、起きたときにこうなったのは初めてだ。どういうことだと腰をむずむず動かしていると、僕の状態に気づいたらしい殿下が小さく笑った。
「二日間の発情だったが、前回よりも注ぎ込んだ量ははるかに多い」
改めて聞かされると、さすがに恥ずかしくなる。
「起き上がったことで奥に留まっていたものがこぼれ出したのだろう。ほとんどノットで塞いでいた状態だったから、最中に漏れ出る分も奥に留まったままのはずだ」
「のっと？」
「昔はすべてのαの性器に現れた現象のことだ。吐精するとき、子種がΩの腹から漏れないように性器の根元が膨らむ。そうすることで子を孕ませやすくしていたらしい。まさかそれがわたしに現れるとは思っていなかったが」
殿下の言葉を聞きながら想像してみた。アレの根元が膨らんで、それが蓋をしたようになる、ということだろうか。
（……それは少し、怖くないか？）
形もだが、受け入れる側は痛くないんだろうか。
（いや、違和感を感じたのは少しだけで痛くはなかったな）
むしろお腹の中が満たされていくのが気持ちよくて、塞がれている部分のことはまったく気にならなかった。
「……っ」
しまった、淫らなことを思い出したせいでまた尻が濡れてしまった。できれば拭いたいが、いま腰を上げればさらにあふれ出しそうな気がする。ということは殿下にその様子を見られてしまうということで、さすがにそれは恥ずかしい。
どうしたものかと眉を寄せて考えていると、「すまなかった」という言葉が聞こえてきた。
「殿下？」
上半身を起こした殿下が僕を見て、それからスッと視線を逸らした。
「やはり怒っているのだろう？ 我を忘れてしまっていたとは言え、無理やり発情させるなど、やってよいことではない。力で屈服させるなど想う相手にすべきことではなかった」
「そ、うです、ね」
反省しているらしい殿下の様子よりも、最後の文言が気になって言葉が詰まってしまった。
（いや、僕を想ってくれていると言われたことはちゃんと覚えている）
それでも改めて言われると、こう、胸にグッとくるものがあった。自分が恋だの愛だのといった気持ちを抱くことはないと思っていたからか、緊張して鼓動まで速くなる。
アールエッティ王国は小国ではあるが、王太子である自分が自由に恋愛できるとは思っていなかった。むしろ小国だからこそ国のために妃を迎えなければと考えていた。それでも時々、本当にたまにだが「本のような恋愛がしてみたいなぁ」と思うことはあった。叶わないとわかっていても、年頃になるとそんな気持ちを抱いていたことを思い出す。
（それが、まさか嫁ぐ側になって叶うとは）
しかも相手は大国の王太子だ。ときめく気持ちを抑えながら、もう一度うなじの噛み痕に触れる。
「やはり、許してはもらえないか」
「え？」
「たしかにランシュは妃候補だ。だからといって無理やりしてもよいわけではない。とくに強制的に発情させるなど、Ωにとっては許せないことだろう」
殿下の表情が暗い。もしかして自分を責めているのだろうか。
（発情させられたことは何とも思っていないんだが）
むしろ、こうして噛んでもらえたのだから僕としては万々歳だ。
（……そういえば、僕は自分の気持ちを口にしたか？）
いや、行為の最中は噛んでもらうことに必死で、そのことばかり言っていた気がする。その後は頭がぼんやりして、まともに話をすることすらできなかった。
（まさか、勘違いしているんじゃ）
僕は慌てて掛け布団を剥ぎ、殿下の正面に座った。
「僕は殿下のことをお慕いしています。だから今回のことで怒ったりはしません。そもそも最初に無理やり仕掛けたのは僕のほうで、殿下こそ不快に思われたんじゃないかと心配しているくらいです」
気がつけば、拳を握っていた殿下の右手を両手で握りしめていた。どうか僕の気持ちが伝わりますようにと願いながら、沈んでいる黒目を必死に見つめる。
「ランシュは、わたしのことが好きなのか？」
「はい」
はっきりとそう返事をしたら、黒目がゆっくりと見開かれた。
「……そうだったのか。そうなってほしいと願ってはいたが……そうか」
「僕が妃の一人になることはないだろうと思い、叶わない想いだと諦めていました。その、帰国する前に思い出をと思って、とんでもない香水を使ったりして……申し訳ありません」
「香水？ あの香りは香水だったのか？」
「僕の妹が調香したものでして……。Ωが発情したときの香りだと」
どれくらいの効果があるのか半信半疑だったが、まさかあれほど効果てき面だったとはいまさらながら驚く。おかげで殿下の気持ちを知ることができ、僕の想いも告げることができた。
だからといって殿下が不快にならなかったとは思わない。僕のほうこそ無理やりなことをしてしまった。
「違和感はあったが、男のΩだから突発的な発情なのかと思っていた。そんな香水を作り出せるとは、妹殿は優秀な調香師だな」
「いえ、元々は香水瓶のデザインをしているんですが、趣味が高じてと言いますか」
「それでも才能があることには違いない」
褒められたのは妹のことだが、僕まで照れくさくなる。
「香りといえば、ランシュに伝えていないことがまだある。Ωの香りについてだ」
改まった殿下の様子に一瞬ドキッとした。もしかして今回の発情で僕の香りに何か問題でもあったんだろうか。不安な気持ちが顔に出てしまったのか、「心配しなくていい」と言うように殿下の左手が僕の両手を包み込んだ。
「わたしに噛まれたランシュの香りは、今後わたしにしかわからなくなる」
「え？」
「αを誘うランシュの香りはわたしにしか効果がなくなる。それがαに噛まれるということだ」
そうなのか。そういえば二度目の発情のときに「僕を殿下だけの香りにしてほしい」と思った気がする。今回もそんな気持ちになったが、あれはΩの本能だったのかもしれない。
「先に伝えておくべきだったな」
「いえ、大丈夫です。もともと香りはないようなものでしたし、困ることはありません。それに、殿下だけの香りにしてほしいと僕も願っていましたから」
「……そうか」
おや？ 殿下の頬が少し赤くなったような気がする。じっと見つめていると、左手で口元を覆い隠してしまった。
「殿下？」
「……いや、想いが通じあうというのは、考えていた以上に照れくさいものだな」
何が殿下を恥ずかしがらせたのかわからないが、こんな表情の殿下を見るのは初めてだ。
「それに、その格好で言われるともう一度発情をくり返したくなる」
「え？ ……あ、」
自分の体を見下ろし、慌てて掛け布団を掴んで股間を隠した。殿下に気持ちを伝えることに気を取られ、裸のままだったことをすっかり忘れていた。いまさらだとは思うが、それでも素面で裸を見られるのはさすがに恥ずかしすぎる。
（それに、こんな貧弱な体の王子なんてみっともないだろうし）
いや、こういう体つきもΩの特徴なのだ。頭では理解しているが、二十四年間ただの男として生きてきたせいかどうしても気になってしまう。
「ランシュがそこまで想っていてくれたのだ。わたしのほうも、しっかりと腹を括らなくてはな」
「殿下？」
「いや、こちらの話だ」
そう言って微笑んだ殿下に肩を引き寄せられた。触れた肌にドキッとし、ふわっと感じたミルクの香りに少しだけ鼓動が速まる。
（これからが大変なのかもしれない）
それでもノアール殿下となら大丈夫だ。そう思い、思いの丈を込めて殿下の背中を抱きしめた。
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