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「あ、うん」
「ホームズさんの宿敵だった人の展覧会をするの、気が進まへんとか?」
「そういうわけじゃなくて、その逆で」
「逆?」
「気が進まないというより、とてもやりたいの。私自身も彼の作品のファンだから、妙に気負っちゃってて、プレッシャーなのよ」
「こんなふうにしたい、ってアイデアとかないの?」
「……いろいろ考えてはいるんだけど、なんていうかね、『これだ!』って感じにはならなくて」
ニューヨークでも私は、展示に悩んでいた。
車の中で、夜のSoHoの町を眺めていた時。私は通りにふんわりと幻想的に灯る和傘店の明かりをぼんやりと見ていた。あれがきっかけで、アイデアが浮かんできた。
和傘を使ったなら、素敵になるんじゃないかと――。
結果は大好評で、私自身、良い展示ができたと思っている。
今はまだ、あの時のような閃きが降ってこない。
そのため、気持ちが焦る一方だ。
「展覧会はいつなん?」
「いつでもいいんだって」
私がそう答えると、香織は、へっ? と目を丸くした。
「いつでもって、どういうこと?」
「ほら、会場が家頭邸でしょう? 普通の美術展覧会とは違って、『この日にしなきゃいけない』って決まりがないの。円生さんも『いつでもええ。任せるし』なんて言ってくれているから、本当にいつでもいいみたいなんだけど、私はクリスマスに合わせたいと思っていて……」
そっかぁ、と香織は頷く。
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