[番外編] 相笠くりすの憂鬱

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「葵さん。遊郭に身売りするくらいなら、僕にその身を売っていただけませんか?」  葵は、大きく目を見開いた。 「こちらはすべての事情を知ってるのですから、騙すことにはなりません。あなたは僕に『それで良いのですか?』と聞きましたね? 正直な僕の気持ちを言いますと、真城家と縁を結ぶために、あの金額の借金を肩代わりするのは高すぎると思っていました。ですが、あなたに会って気持ちは変わりました。あなたには真城家の名前以上に価値がある」  思いもしない申し出だったのだろう、葵の瞳が揺れていた。 「それは、つまり……あなた専属の遊女になれと?」 「ええ、そういうことです」  どうして、こういう言い方をしてしまうのか。  彼女の強さは、誰かを想っているのかもしれないと思ったら、ついムキになってしまった。 「真城家が破綻してしまえば、その被害はあなたの家の問題だけではなくなります。真城家と関わり持つ多くの者たちが路頭に迷うことになる。この縁談を進めるだけで、すべてが上手くいくんです。悪い話ではないでしょう? それともあなたは不幸な家族を増やしたいですか?」  こう言えば、彼女が逃れられなくなるのを知っていて、そんなふうに告げる。  自分は本当に悪魔のようだ。  清貴は自嘲的に笑いながら、さあ、と手を差し出す。  葵は、意を決したように、その手を取った。  清貴は、彼女の手を引き、抱き寄せる。 「仮契約を交わしましょう。今宵、僕はあなたを抱きます」  清貴は、葵の耳元でそう囁くと、腕の中の彼女が、びくんと震えた。  ――これが、歪んだ恋愛の始まりだった。
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