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「――と、まぁ、こんな感じかしら」
くりすは、清貴が読み終えたのを確認するなりそう告げる。
清貴は大きくうな垂れたまま、ぽつりと零した。
「……あかん」
「えっ?」
「こないな言い方で、葵さんを手に入れたりしたら、嫌われてしまうではないですか!」
そうよ、とくりすは頷く。
「清貴は、葵には想い人がいると思い込むんだけど、実は葵は、婚約者である清貴のことを調べていくうちに、清貴に恋をしてしまっていたのよね。だからこそ、騙すようなことをしたくなくて、婚約を破棄してほしいって申し出たのよ」
すれ違い両片想いね、と話すくりすに、ああっ、と清貴は頭を抱える。
「ますます、あかんやつ。ほんで僕はこの夜、彼女と同衾するのでしょうか?」
「……同衾って。あなたなら、どうするのかしら?」
くりすの試すような視線を前に、清貴は顔をしかめて、腕を組んだ。
「僕なら……この夜には、そんなことはできない気がします」
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