見習いキュレーターの健闘と迷いの森 前編

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プロローグ  窓の外の街路樹が鮮やかに色付いている。  暦は、もう霜月。秋も深まり、冬の気配を感じる季節だ。  時の流れは速い。四季はアッという間に巡っていき、気が付くと私――真城葵も、大学二年生の冬を迎えようとしていた。  同窓生たちはきたる就職活動に向けて、本格的に対策を始めている。  私もそろそろ意識しなければならないと思いつつ、最近はそれどころではなかった。  今、私の頭を占めているのは、勉強でも就職でもなく、展覧会のこと。  かつて腕利きの贋作師であり、今や画家として羽ばたこうとしている円生(本名・菅原真也)の展覧会を私が手掛けることとなり、寝ても覚めてもそのことばかり。  大学の学食で、親友の宮下香織とランチをしている今も――、 「……はぁ」  と、ため息をついてしまっていた。  すると向かい側に座る香織が、少し申し訳なさそうに眉を下げる。 「あ、嫌やった?」  私は、えっ、と顔を上げて、香織と視線を合わせる。 「ごめん。ボーッとしていた」  そんな私に香織は怒るわけでもなく、やっぱ聞いてなかったんや、と愉しげに笑う。  私の前には、すっかり冷めてしまったホットサンド、香織の前にはパスタがある。  彼女の方は、もう食べ終わりそうだ。 「ほら、もう『フラワーアレンジメント・サークル』は、休止状態やん?」  うん、と私は、話を聞く態勢を整える。  
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