見習いキュレーターの健闘と迷いの森 前編

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 フラワーアレンジメント・サークルは、元々二つ上の先輩が作ったもので、香織が一番下の後輩だった。ここ最近、先輩方はいろいろと忙しく、ほぼサークル活動はしていない。  そのため、先日の学園祭――流木祭を最後に引退を決めたのだ。  後輩が入ってきていなかったので、今やサークルは香織だけ。  私は時々お邪魔させてもらうだけの仮部員のようなものであり、香織はというと勧誘に熱心になるほど、フラワーアレンジメント・サークルに固執していなかった。  フラワーアレンジメントは自分一人でもできる。まだ学生なのだから、さまざまなことにチャレンジしようと、いろいろなサークルに顔を出し、体験をしている。  陶芸サークルに行くようになったのも、その活動の一部だ。陶芸は私も嵌ってしまい、マグカップ、湯呑みに続いて、小皿や鉢なども作っていた。  形はさておき、良い色を出せていると言われて――もちろん素人の域だけど、気を良くして、せっせと作っている。 「最近、うちの大学で〝京の町をもっと素敵にしたいプロジェクト〟略して『京もっと』てグループができたんや。そこに、葵も参加しぃひん?」  そう問われて、私はすぐに返事をできなかった。  今の自分は展覧会で頭がいっぱいだ。もし時間があっても、心に余裕がない。 「香織はもう参加してるの?」 「うん、とりあえず程度に。春彦さんがプロジェクト・リーダーやからお手伝い感覚なんやけど」 「春彦さんが関わっているんだ」  そっか、と私は納得する。  彼の名前は、梶原春彦。  私やホームズさんと馴染みの人気俳優、梶原秋人さんの弟だ。  そんな春彦さんと香織が親しくなったのは、私がニューヨークに行っている間のこと。どうやら気が合うようで、最近はちょくちょく行動を共にしている。
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