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少し前まで春彦さんはフラワーアレンジメント・サークルの先輩・目黒朱里さんと交際していた。けれど二人の関係は、春彦さんが振られるというかたちで終わってしまったのだ。
「別れる前から春彦さんは、先輩に避けられてるのを感じてて、その不安を払拭するように、いろんなことを始めたそうなんや。で、結果、失恋やろ? 今はさらに精力的に活動することで、その悲しみを紛らしてるんちゃうかな」
可哀相やな、と香織は洩らす。
「香織は、その、春彦さんのことを意識したりは……?」
私は気になっていたことを小声で訊ねると、香織は、プッと笑った。
「ないない。そういうんやないし。なんでそないに思うのん?」
「なんで、って……すごく気が合うみたいだから」
「ノリが合うてるだけや。けど、恋愛とはちゃうねん。うち、あんなに異性として意識しない人は初めてなくらいで」
「そうなんだ?」
そや、と香織は首を縦に振る。
「春彦さん、年上やけど弟みたいな感じで、まったくドキドキしぃひん。そやから、楽で。そんなの恋愛とちゃうやろ?」
そうかも、と私は答える。
実際に彼は弟気質だ。警戒心を与えない、子犬のような雰囲気を持っている。
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