見習いキュレーターの健闘と迷いの森 前編

7/22
前へ
/198ページ
次へ
 思えば香織は、私とホームズさんの仲を心配しがちだ。  どんなカップルも長く交際していると、いろいろと出てくるだろう。  もちろん私たちもこれまでさまざまなことがあった。  けれど、それらを乗り越えて結果的には安定しているし、何より香織にいろいろあったその詳細を伝えているわけではない。  だから、なぜいつも香織が私たちを心配するのか、気になるところでもある。 「私とホームズさんの仲って、そんなに危うかったりする?」  香織は、うーん、と首を捻る。 「……それがよう分からへん。夫婦みたいに安定して見える時もあれば、何かいきなりびっくりするようなことが起こっても不思議やないていうか。上手く伝えられへんのやけど。そもそも、ホームズさんってよく分からへん人やし」  ぼんやりとした言葉だったが、ニュアンスは伝わってきた。  それに、と香織は言いにくそうに声のトーンを落とす。 「ホームズさん、あの通りのイケメンやん? 出会いもたくさんありそうやし、葵は不安になったりしぃひんのかなって」 「不安に……?」  たしかにホームズさんは、目を惹く容姿をしている。顔立ちは端整で、背が高く、スタイルも良い。町を歩くと露骨に振り返る女性もいるほど。  かつての私は、そんなホームズさんを手の届かない存在のように思っていたのだ。  香織の言う通り、不安になってもおかしくはないのだけど……。 「あまり、不安になることはないかな……。あっ、もちろん、まったくないわけじゃないけど」  私の答えを聞いて、香織は、ぷっ、と笑う。 「ホームズさんは葵に夢中やし、不安になることもないか」  そんな、と私は気恥ずかしくなって身を縮めた。 「うち、ホームズさんが苦手やったけど、最近は見直してるんや」 「そうなの?」 「うん。『ホームズさんみたいな男は信用できひん』って思うてて、ほんま言うと葵を心配してもいたんや」 「そうだったんだ」 「けど、ホームズさんは葵みたいなええ娘を選んで大切にしてるやろ? うちの評価は上がってるし」  ニッ、と笑う香織に、私の頬が熱くなる。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1712人が本棚に入れています
本棚に追加