水面下

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ふたつ返事で、彼女は俺が指定したフレンチレストランにやって来ることになった。 彼女の誕生日を祝うのは、今日が最初で最後だ。 「――どうぞ、ごゆっくりくださいませ」 「ありがとう」 数時間後、店に到着し、雪平といっしょにVIP席に通される。 フランス王室を彷彿とさせるロココ調の個室は、深紅の壁紙になっており、妖艶なスパイスが効いている。 一人がけのハイバックソファにそれぞれ着くと、テーブルの中央に置かれたロウソクの光に雪平の整った笑みが浮かび上がった。 「この部屋はあえてですの?」 「なんのことだ?」 「薫さんに一度連れてきていただいたわ」 たしかにここは薫が好きな店であり、大切な友人や家族と、大切な日にのみ利用していた。 しかしこの個室を通されたのは、ただの偶然である。 傲慢で強情な雪平梢でも、薫は将来添い遂げる伴侶として大切に大切に接していた。 ふたりが仲睦まじいと俺の目には映っていた。 家を出たという立場であったが、ふたりの未来が幸せになればと思っていた。 彼女に恋愛感情は、一度も抱いたことがない。 あれだけ尽くしていた薫が最期ああいうことになったのにも関わらず、 雪平が簡単に俺へ気持ちを乗り換えたことが耐え難い。 「薫に、誕生日か何かで連れてこられたのか?」
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