水面下

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食前酒で口を慣らして聞いてみると、雪平は機嫌よく笑みをこぼした。 気をよくさせて、彼女からより多くの情報を聞き出したい。 事実を知って、何かを失うかもしれない。 今まで通りの生活は難しくなるのかもしれない。 それでも俺は、結愛だけは失いたくない。 「ええ、ちょうど薫さんが亡くなる年の誕生日に連れてきていただきました。ここで大きな真っ赤な薔薇の花束とバッグを頂いたんですの」 「それは豪華だな」 「そうでしょう」 誕生日に花束を添えるのは、一般的に変わったことではない。 ただ、俺が結愛に渡した薔薇の花束だということが引っかかる。 「どうして薫は、薔薇を選んだのだろうか」 運ばれてきたピンチョスに手を伸ばしながら、それとなく伺う。 奥歯で噛んだ拍子に炙ったミニトマトがはじけ、ほのかな土の香りが鼻に抜ける。 酸味と甘み……そして微かな不快感。 「薫さんは、秋人さんに憧れていたのかもしれませんわ」
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