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「憧れ?」
まったく予想していなかった返答がかえってきて、思わず顔をしかめる。
雪平は俺と目が合ったことがよほど嬉しいのか、大きな目を煌めかせている。
「ええ、とても前ですけどね。薫さん……秋人さんが当時お付き合いされていた彼女に薔薇の花束をプレゼントしたことを、私にお話くださったことがあったんですの。そうしたら、その後に私にプレゼントしてくださって。きっと秋人さんのお話を、私にしたことを覚えていなかったのね」
雪平は愉し気に話すが、返す言葉がない。
薫は結愛のことも知っていた。彼女に薔薇の花束を渡したことも話していた。
常に薫は俺の手本であろうとしていた。
だから、俺が知らないところで雪平に結愛と同じような振舞いをしていたとは、なんとも複雑な心境だ。
「薫さんは滅多に私には秋人さんのお話をなさらなかったの。もしかしたら秋人さんに、私の気持ちが移ってしまわないか不安だったんだわ」
どんな心境で雪平が俺に告げているのかは分からないが、今すぐにでも帰りたい。
アミューズの時点で席を立つのはマナー違反だと分かってはいるが、この女の顔を一瞬たりとも見たくない。
何も言わずワインボトルを開け、彼女のグラスに注ぐ。
俺の気持ちなど微塵も察していない雪平は、嬉しそうに一気にそれを飲み干した。
「薫と俺は性分が全然違うんだ。だから君とは結婚できない」
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