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「ちょっと心配だけど、温かくして行く? ママとお兄ちゃんとお出かけ」
「うん!」
あやめは母の問いかけに、泣くのを辞め元気よく応えている。
秋人と話すことが怖く迷っているうちに、母と父は準備を進めてしまう。
ここまできたら、流れに逆らうまい。
あやめを完全防寒させた後、実家の玄関でベビーカーに乗せ、私たちは振り返る。
「お母さん、洗い物とかは残しておいて。すぐに帰るから」
「はいはい、行ってらっしゃい。娘とあやめをよろしくおねがいします、葛城さん」
「はい」
父と母は秋人にすっかり懐柔され、下手したら私より親し気な様子だ。
そんな三人を横目に、私は酷く緊張していた。
「おにーたん、おむすびころころのうたしってる?」
駅に向かってベビーカーを引いていると、あやめは体を大きく後ろに向け秋人に一生懸命喋りかけている。
「うーん、なんとなーく知ってるかも」
「こう! おむすびころころ……♪」
あやめはお姉さんぶったような様子で、秋人に歌をレクチャーしている。
秋人も秋人で嘘偽りない、温かい笑みをあやめに向けていて、私も釣られて笑ってしまう。
だめ……なのに。
三人でいることが幸せすぎて、時間が止まってしまえばいいのに、と思ってしまう。
「あやめちゃん、結愛よりお転婆な性格だよな」
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