14-24

1/1
前へ
/348ページ
次へ

14-24

 18時半。  建物の外は搬出作業中の機材だらけで、スタッフさんが行きかっている。ゼロスペースのメンバーがファンに囲まれていた。大和がジャンプして、俺たちに手を振っていた。その流れでファンの子たちに囲まれて、何度も一緒に写真を撮った。カッコいいと言われて感動に浸り、自分が変わったと思えた。  佐久弥が母と話している間、理久へ悠人を紹介することになった。どんな子だろう?と、お互いが楽しみにしていた。如月と食事に行く約束もしたい。 「理久君!こっちだよ。もうすぐ、悠人が戻って来るからね」 「う、うん!えーーっと……」 「どうしたんだよ?」 「緊張しているんだ。ううん、人見知りじゃないよ。お兄ちゃんから評判を聞いて……、ステージも凄くて……」 「話しやすい子だよ。うんうん」  理久が落ち着かない様子になった。俺が心配すると、人見知りでも引っ込み思案でもないのだと、本人が言った。 「おまたせーー!」  悠人がギターケースを抱えて戻ってきた。ファンの男の子から、演奏テクのことで聞かれて教えていた。佐久弥が持って来たギターを使ったから、その子が感動していた。 「ゆうとー。この子が佐伯理久君だよ」 「よろしく!久田悠人です」 「よろしくお願いします。佐伯理久です」  理久がおずおずと自己紹介した。悠人に遠慮している様子だ。一体どうしたんだろう?ステージに立っている悠人は気迫があるものの、今は普段通りになっている。そこで悠人の方を見ると、ふむふむと頷きだした。ますます理久が言葉に詰まった。  「丁寧な子だね。お兄ちゃんとは正反対のタイプだなー」 「反面教師にしているんだ……」 「ズケズケ言う子だねー?」 「本当はそうだよ!」  悠人が吹き出して笑った。理久の方はふっ切れたような表情になり、頬が紅潮した。俺の方へ笑顔を浮かべ、ありがとうと言った。大丈夫だよと背中をさすっていると、悠人が握手の手を差し出した。 「そのままのキミが好きだよ。よろしく!」 「うん。ありがとう!……ごめんね。変な態度を取って」 「げえええっ、兄貴に妙なことを聞かされたんだろー?もうー、あの変な魔法使いは」 「え?お兄ちゃんが失礼なことをした?」 「うん。毒々しいよー。ひいいいっ。ごめん!」 「あはは!ねえ、コーヒーを買いに行こうよ。向こうの自販機が色んなやつが揃っているよ」 「うんうん、行こうねえ」   悠人と理久が顔を見合わせて笑った。気が合ったようだ。  すっかり話し込んでいると、黒崎から手招きされた。そろそろお開きになるぞと言っている。施設の閉場のアナウンスが流れている。慌てて支度をして、みんなと集まった。とびっきりの笑顔付きで。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!

91人が本棚に入れています
本棚に追加