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14-25
すっかり暗くなった空の下、駐車場へ向かって歩いている。うちの応援団と別れた後、悠人たちとも別れた。駐車場には取材記者が佐久弥を待っているようだ。
その佐久弥は送迎車を使わずに、機材を運ぶトラックの助手席に乗って会場を後にした。まずバレないそうだ。スタッフさんと楽しそうに話しながら、ばいばい!と手を振ってくれた。
「ああいう人なのか~。イメージが反対だよ。悠人から聞いていたけど。……うちのお母さん達に親切にしてくれたよ」
「良かったな。……IKUとの契約書類をかわそう。うちに来てもらうか?」
「会社の方へ行きたい。お互いに気を遣うじゃん」
「分かった。遠藤さんと日程を相談しておく」
「なるべく自分でやるよ……」
「まだ甘えてくれ。少しずつ覚えていくといい」
「ありがとう」
ここは素直に甘えることにした。やっと二人きりになれたから、黒崎の腕にすがりつくようにして体重をかけた。動きづらいと文句を言いつつも、引き剥がすこともなく歩いている。
「……夏樹、あのオプションをやってやる」
「クルクル回ってくれたじゃん」
「体調が悪かっただろう。今からが本番だ」
「黒崎さん。うっうっ」
「つかまっておけ」
「うんっ。よいしょっと」
うちわをズボンのウエストに差した。あの時よりもしっかりと腕が回された後、すぐに足元が浮き上がった。冷たい風が頬に触れた直後、大きく回り始めた。遠心力で飛ばされそうだ。こんなに勢いが出るものなのかと信じれない。
「わあ~~~」
「おい。平気か?」
「うん!もっといけーーー」
「まわるぞ……」
「わああ、わああ~~」
「あと……10回転だ」
「ひいいいっ」
会場の向こうに見える湾の上には、夜空に満月が浮かんでいる。何年か先にも、こんな夜が訪れるかな?新しい目的地への出発だろうか?
とても綺麗だと思っていると、足元が地面に着いた。ごく自然に見つめ合っているうちに、お互いの距離がさらに近づいた。息が熱いのは、動いただけのせいではない。
「黒崎さん……」
「夏樹」
「ん……」
「おい……」
「え?離れようね……」
ガーー、ザーーー。
ガヤガヤという話し声と、物音が聞こえてきた。ビックリして振り向くと、大勢のスタッフさんが通り過ぎていった。こっちを見ながらも平然としている。それがますます恥ずかしい。おまけに遠藤さんがいた。見なかったふりをしてくれている間に、そそくさと車へ向かった。
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