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 午前7時半。  黒崎家の門の前にタクシーが停車する音がした。夏樹は先に門の前に出ている。玄関を出ると、アンを抱いた夏樹が近所の女性達と話していた。そして、俺のことに気づいて、笑顔を向けてきた。 「黒崎さーん」 「おまたせ。遠藤さん、おはようございます」 「おはよう。圭一君。この間のドレッシング詰め合わせをありがとう」 「こちらこそ。うちの夏樹がお世話になっています」  近所の女性達に迎えられて囲まれた。犬の散歩やゴミ捨ての帰りに立ち寄ってくれた人達だ。夏樹が心細い思いをしないように、出来るのことをしたい。こうして付き合いをすることで、夏樹が可愛がってもらえるなら簡単なことだ。昔の自分を振り返るとあり得ないことだ。  目的はそれだけではない。夏樹のことを気に入っている男がいる。彼らから守るためには、近所の目が必要だ。通学途中の駅までの間が危険だ。何度も後をついて来られたことがある。大学まで送って行きたいが、夏樹から拒まれている。 「はーい。お弁当だよ。持って出るのを忘れていただろ?」 「いいや。お前から渡してもらいたかった。……行って来る」 「く、黒崎さん?ええ?」  夏樹からランチボックス入りのバッグを受け取り、普段はしない事をやった。頬への軽いキスだ。今朝の味噌汁に惑わされてしまった。女性達からの視線が恥ずかしく、すぐにタクシーへ乗り込んだ。
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