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 数ヶ月が経つと、花蓮は両親や友人の支えもあってかなり立ち直ったようだった。  花蓮は家に帰ると、私との2ショットが入った写真立ての前でその日にあったことを報告してくれるようになった。  写真立ての横には、百合の絵が飾られている。 「凛々、ただいま。今日はね、うーん、特にないな。えっと、いつも通りの1日でした! 授業が眠かったです!」  確かに。今日は特に何もなかったな。  うんうんと頷く。  私は毎日花蓮と一緒にいた。  同じものを見て、聞いて、体験して。勉強もして、苦手な数学に文句を言って。  双子の妹の花蓮と一緒にいれば、私も生きて同じ生活をしているような気がするんだよね。  花蓮がある日、つぶやいた。 「柊斗くん、会いたいな」  花蓮も私以外の人のことを思えるほど立ち直ったんだという喜びと、ずっと一緒だった花蓮の日常から私が消えたことへの悲しみと。  いろんな気持ちが浮かんでは消えて、また浮かんで。  最後に残ったのは、申し訳ないという気持ちだった。  花蓮が柊斗くんと離れ離れになったのは、私のせいだから。  私が病気を発症して。  大きい病院で診てもらわないといけなくて。  専門のお医者さんがいる病院は、通うには遠くて。  お父さんの転勤先がちょうどその病院の近くだったこともあり、私たちは家族で引っ越すことになったのだ。  馴染んだ土地も、仲の良い友だちも、柊斗くんとの時間も。  全部ぜーんぶ捨てなければならないのに。  引っ越しの話を聞いた花蓮は即答したのだ。  もちろんいいよって。  白い封筒が届いた時、花蓮はそれはそれは落ち込んでいた。  当然だよね。  花蓮はきっと、柊斗くんに恋をしていたから。  私はその次の日、初めて花蓮と一緒に学校に行かなかった。  その次の日も、またさらに次の日も、行かなかった。  毎日、花蓮が家を出てから帰ってくるまでの数時間。  柊斗くんが通っていた中学校の、私たちより一つ上の学年の教室に入り浸って会話を聞き続けた。  そしてある日、手がかりをつかんだんだ。  柊斗くんが引っ越した県と、市と、通っている中学校の名前を。  そこは、私たちの住む場所からはかなり離れていた。  翌日からは、家には戻らずに柊斗くんを探し続けた。  花蓮が毎日写真立ての中の私に話しかけてくれるその言葉を聴けないのは残念だったけれど、それでも探したかった。  柊斗くんの卒業が、タイムリミット。時間に追われながらも探し回った。  そしてとうとう、見つけた。  公園で花蓮と楽しそうに話していた、彼。  私が見守る人は、花蓮と柊斗くんの2人になった。  卒業式の日。卒業証書を握りしめて、柊斗くんはつぶやいた。 「花蓮ちゃん……」  花蓮の手紙が彼に届かなかったということは、彼から見れば花蓮は黙っていなくなった薄情者だ。  それなのに花蓮を忘れないでいてくれて、節目の日に思い出してくれるなんて。  やさしいな。  私の声は誰にも届かないから、柊斗くんを見つけたからって何もできないけれど。  2人の再会を祈ることならいくらでもできる。  花蓮の、柊斗くんの、会いたいという願いが叶いますように。
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