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 ベッドの上で、私はか細い息を吐き出した。  年齢を数えなくなってから何年が経っただろうか。そろそろ私も永遠の旅に出る時が来たようだ。  両親も姉も夫も、私より先に旅立ってしまった。たった1人の娘も、少し前に。  孫たちに迷惑をかけながら生き永らえるのも良くないな、なんて思いながらもなかなかお迎えは来ず、私1人だけが取り残されてしまった。  皆が遠いところに行ってしまってからも、目を閉じれば皆と会うことができた。  生きている時に目に焼き付けた姿をまぶたの裏に思い描く。  顔を忘れかけても、写真を見れば思い出せた。  それでも、しだいに残像が薄れていくような気がして、寂しかった。  孫たちがベッドを囲んでいる。手を伸ばせば、百合の花を一輪握らされた。  手を胸の上に置いて百合の花を胸にのせる。  凛々。私たちはお母さんのお腹の中からずっと一緒だったけど、1人だけになっても、ちゃんと生きたよ。  凛々に褒めてもらえるくらいには長生きできたよね。  もう、皆に会いに行っても、いいかな。  孫たちの顔を最後に見て、それからゆっくりとまぶたをおろす。  孫たちが何かを言っているのが聞こえるけれど、もうまぶたは重くて開かなかった。  まぶたの裏の皆を見つめる。  薄れかけていたはずの皆の姿が段々とくっきりしてきた。  皆が近づいてきて、両腕を広げる。  私は皆の元へ走りだした。皆の輪の中に飛び込むと、笑い声を上げながら受け止めてくれる。  少し奥で寄り添っておだやかにほほえんでいるのは、私の両親。  私の肩を抱くのは、夫の柊斗。  私の左手を握ってブンブンと振り回しているのは娘の楓。  そして私の目の前に立っているのは、双子の姉の凛々。  私の右手と凛々の左手を重ね合わせる。私の手は凛々と同じですべすべとしている。 「ずっと、見てたよ」 「見守っていてくれて、ありがとう」 「やっと会えたね」 「何十年も、この日を待ってた」  皆の顔を順番に見る。皆が笑い返してくれる。  ああ、本当に。ようやく、また会えた。  どこからか桜の花びらがいくつも飛んできて降りそそぐ。 「さ、花蓮。行こう!」  凛々に手を引かれ、皆と共に花びらの来る方へと足を踏み出した。
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