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6
ベッドの上で、私はか細い息を吐き出した。
年齢を数えなくなってから何年が経っただろうか。そろそろ私も永遠の旅に出る時が来たようだ。
両親も姉も夫も、私より先に旅立ってしまった。たった1人の娘も、少し前に。
孫たちに迷惑をかけながら生き永らえるのも良くないな、なんて思いながらもなかなかお迎えは来ず、私1人だけが取り残されてしまった。
皆が遠いところに行ってしまってからも、目を閉じれば皆と会うことができた。
生きている時に目に焼き付けた姿をまぶたの裏に思い描く。
顔を忘れかけても、写真を見れば思い出せた。
それでも、しだいに残像が薄れていくような気がして、寂しかった。
孫たちがベッドを囲んでいる。手を伸ばせば、百合の花を一輪握らされた。
手を胸の上に置いて百合の花を胸にのせる。
凛々。私たちはお母さんのお腹の中からずっと一緒だったけど、1人だけになっても、ちゃんと生きたよ。
凛々に褒めてもらえるくらいには長生きできたよね。
もう、皆に会いに行っても、いいかな。
孫たちの顔を最後に見て、それからゆっくりとまぶたをおろす。
孫たちが何かを言っているのが聞こえるけれど、もうまぶたは重くて開かなかった。
まぶたの裏の皆を見つめる。
薄れかけていたはずの皆の姿が段々とくっきりしてきた。
皆が近づいてきて、両腕を広げる。
私は皆の元へ走りだした。皆の輪の中に飛び込むと、笑い声を上げながら受け止めてくれる。
少し奥で寄り添っておだやかにほほえんでいるのは、私の両親。
私の肩を抱くのは、夫の柊斗。
私の左手を握ってブンブンと振り回しているのは娘の楓。
そして私の目の前に立っているのは、双子の姉の凛々。
私の右手と凛々の左手を重ね合わせる。私の手は凛々と同じですべすべとしている。
「ずっと、見てたよ」
「見守っていてくれて、ありがとう」
「やっと会えたね」
「何十年も、この日を待ってた」
皆の顔を順番に見る。皆が笑い返してくれる。
ああ、本当に。ようやく、また会えた。
どこからか桜の花びらがいくつも飛んできて降りそそぐ。
「さ、花蓮。行こう!」
凛々に手を引かれ、皆と共に花びらの来る方へと足を踏み出した。
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