千夜くん、倒れるの続き

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不意に柔らかい感触を左手に感じ、俺は目を覚ました。 いつのまにか眠っちまった様だが、身体はまだ熱っぽい上に、久々に見たあの夢…。 「千夜くん…大丈夫…?」 「香澄…」 俺の声はまだ掠れていた。 顔を左に少し向けると、香澄が泣きながら俺の左手を、その小さな両手で握り締めている。 俺は縋り付く様に上体を起こすと、香澄の細い身体を抱きしめた。 「せ、千夜くん…?」 「過去の夢…見たんだ…」 「過去…?」 「俺…1年の時…無理矢理…」 それ以上は、どうしても言えなかった。 何とか声を出そうと口を開くが、言葉が出てこない。 と、香澄が俺の左手を離し、背に両腕を伸ばした。 「良いのよ?みなまで言わなくても」 「香澄…俺…情けねーな…」 「そんな事ない。人は誰しも完璧じゃないのよ?弱いところやダメなところだって有るんだから…」 「香澄…!」 俺は思わず香澄を抱きしめる腕に力を込めた。 「く、苦しい…」 胸の中の香澄が、そう言って手で俺の背中を叩いたから、俺は咄嗟に香澄の身体を解放した。 「寝汗、酷いわね…。私、着替え持ってくる」 香澄は涙で濡れた顔してそう言うと、近くに在ったハンカチと鞄を手に取り寝室を出て行った。 俺は右側の枕元にある、まだ残っている水を飲んだ。 今朝は喉が痛かったが、今は喉は何ともねー。
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