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「入っていたけどよ。風呂場にまでデケー音が聞こえたから、何かあったのかと思ってよ」
見ると、床にはステンレス製のボールが2つと、ゴムベラが転がっていて、水か何かで濡れていた。
俺は、香澄の直ぐ近くまで行くと、そっと抱きしめ、その可愛い顔にも、あちこち付いてる焦茶色の汚れを舐めてみた。
「キャッ!せ、千夜くん?」
「チョコレートの味がするな。それより手、早く手当てしねーと」
俺は香澄をそっと離すと、冷蔵庫から生肉を取り出した。
香澄は香澄で水道水を自分の手に掛けている。
どうやら、湯煎している時に熱湯ごとボールを落としちまった様だ。
だが…どこをどうやったら、こんな惨状になるんだ?
「慣れねー事をするから、こうなるんだ」
俺は香澄が蛇口を閉めてから、生肉を香澄の紅くなっている手にしっかり巻いた。
「千夜くん…?」
「何、こうしてれば生肉が熱を取ってくれる。…香澄、俺にバレンタインデーチョコレートを作ろうと思ったのか?」
俺はニヤリと笑って香澄を覗き込んだ。
香澄は図星だったのか、顔まで紅らめムッとした様に視線を逸らせた。
「だって…千夜くんには、いつも家事を全部やってもらっているし、私だって彼氏に手作りのチョコレート食べてもらいたいし…」
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