山村先輩のチョコレート作り教室

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そう言うと山村先輩は、コンロの下の扉を開けて幾つかの市販されている型をボールの隣に並べた。 「どれが良いー?」 「え…えっと…こ、このハート型の型で…」 湯煎しか主にしていないのに、疲れた私は息も絶え絶えだ。 「香澄ちゃん、もしかして緊張してる?大丈夫だよう。最初から上手く作れる人は居ないよう」 山村先輩はそう言ってくれたけど、千夜くんには美味しく食べてもらいたい。 「失敗しても、別のチョコレートで作れば良いんだから」 「ありがとう、山村先輩。でも早く帰って千夜くんに逢いたいの」 呼吸が落ち着いてきた私の言葉に山村先輩は寂しそうな笑顔を見せた。 この笑顔…私は以前も見たことがある。 そう…一昨日、学園で早く帰って千夜くんに逢いたいと言った時の、鈴木くんの笑顔と一緒だ。 「香澄ちゃんは、ホントに保が好きなんだねー。多分、僕よりずっと好きなんじゃないかなぁ」 ハートの型をパッケージから取り出しながら、山村先輩は無理した様な明るい声で言った。 少し罪悪感を感じる。 「山村先輩、私…」 「はい!型に流すよう。こぼれたら大変だから僕がやるよう。後はナッツを入れて、冷やして硬まったら出来上がりだから」 早くも気持ちを切り替えたのか、山村先輩はいつもの雰囲気に戻ると、私がはめている鍋掴みとは違う鍋掴みでボールを持ち上げた。
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