繋いだ翼

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「私たち、離婚しよっか」  ガトーショコラとモンブランが入った白い箱を床に落としてしまった。すぐには言葉の意味を理解できず、落とした箱を拾う。ぐちゃぐちゃになっちゃったかな。でも、捨てるのももったいないなとか、妻の言葉とは関係のないことが頭の中を巡っていた。 「なんでそんなこと言うんだよ。早く、元気になって、退院して、一緒に帰ろう」 「帰るつもりないから」  窓の外を見つめたまま、こちらを向こうともしない妻を見て、嫌な汗が背中を伝う。もしかすると、ずっと前から考えていたことなのかと不安になる。 「大丈夫だよ、俺、桃香のためならなんだってできる。その覚悟だってある。なにも気にしなくていいよ」 「もう、決めたことだから」  迷いのないまっすぐな目で見つめられる。やっと目が合ったというのに、まるで気持ちが通じ合わない。妻の、桃香の、迷いのないこの目に惚れたあの日のことを思い出すと、簡単には頷けなかった。
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