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積ん読という言葉がある。本を買ったはいいけれど読まずに放置している場合を示すという。
読み切れないほど大量に、ついつい本を買ってしまう。それほど本が大好き。そんな人々が行うのが積ん読なのだろう、一般的には。
私の部屋にも、全くページを開いていない本が積まれており、それでも私は毎週2、3回、本屋に足を運んでいる。傍から見れば、私も「それほど本が大好き」と見えるのだろうか。
実際、行きつけの本屋さんで店員のお兄さんから、
「いつもありがとうございます。本がお好きなのですね」
と声をかけられたことがある。
常連客として顔を覚えられたからこそ「いつもありがとうございます」なのだろうし、購入する本の種類が多岐に渡っているために「本全般が好き」と判断されたのだろう。後者はともかく、前者は私も嬉しくて、つい正直に「こちらこそ、いつもありがとうございます」と返してしまった。
私が通う本屋さんは、駅とは反対方向。会社帰りに自分のアパートの前まで来てもスルーして、さらに歩き、住宅街を抜けた辺りにあるお店だ。他にも色々なお店がポツポツと点在している地域なので、一応は地元の商店街という感じだった。
そんな本屋さんの入り口で「12月末に閉店します」という張り紙を見つけたのは、今から1ヶ月ほど前のこと。見た瞬間、私の内心は大パニック。ここが閉店したら、一体どこへ行けばいいのやら……。
それ以来、私は悶々とした日々を送ってきたが、黙って手をこまねいているうちに、ドンドン閉店の期日は迫ってくる。
このままではいけない! 意を決した私は、とうとう今日、本を購入する際のレジで、勇気を振り絞って尋ねてみた。
相手は、あの「本がお好きなのですね」と言ってくれたお兄さん。スーッと整った顔立ちで、黒縁メガネが似合っている店員さんだ。
「あの……。この本屋さん、もうすぐ店じまいなんですよね?」
「はい、残念ながら……。でも三つ先の駅まで行けば、同じ系列の書店がありますので、今後はそちらをご贔屓にしてください」
と少し系列店の宣伝をしてから、私の表情を見て付け加えた。
「いや、お客様としては、もっと近くの方がいいですよね。そこまで行かずとも、ここから歩いていける範囲にも別の書店はありますので……」
お兄さんは親切だ。わざわざ簡単な地図を広げて、この近辺の書店を紹介しようとする。系列店ではない書店を教えるのはお店の利益に反するだろうに、それよりお客様優先なのだろう。
そもそも地図を用意していたこと自体、他の客からも既に「ここが閉店したら、どこへ行けばいいの?」みたいな質問をされる機会があったからかもしれない。
しかし私は、そんな客とは違う。だからお兄さんの言葉を遮って、勢いよく捲し立てるのだった。
「いいえ、三つ先の駅でも行きます。あなたがそのお店に異動になるのであれば! あるいは、もっと遠くのお店に異動ですか? だったら教えてください!」
「……は?」
ポカンとするお兄さん。
「あっ、もしくは正社員じゃなくてアルバイト? ここが閉店したら、本屋以外でバイトですか? それならそれで、今度はそちらへ通いますから!」
「……」
黒縁メガネのお兄さんは、絶句してしまうが……。
だって仕方ないではないか。私がこの本屋へ通っていたのは、本そのものではなく、店員のお兄さんが目当てだったのだから!
(「ツンドクなアタシが通う本屋さん」完)
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