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性格の違う姉妹
ふたつ年下の妹ユキは、私と違って昔から初対面の人にも物怖じせずにグイグイ話をする子だ。
「迷うなぁ。この表で見ると……一番端に当てはまるインドネシアカロシは一番苦いってことだよね?」
「左様でございます」
「そんじゃ反対側のは苦くないってことかな?パナマエスメラルダゲイシャナチュラル……って名前長っ!呪文?わ、値段も高い!誰が飲むの?貴族?」
「ちょ、ちょっとユキちゃん、失礼よ」
歯に衣着せぬ物言いをする妹にはハラハラさせられる。
「そちらはパナマのエスメラルダ農園で採れたゲイシャ種という珈琲豆でございます。通常の珈琲豆と比べて少し細長い形をしています」
メガネをかけた店長さんらしき人はユキの失礼な話し方など気にする様子もない。カウンターの向かい側から珈琲豆を2種類、皿に並べて見せてくれた。
「うーん、言われてみればって感じ」
「コーヒはフルーツというのはご存知ですか?赤い実の中に何重にも包まれた一番内側の種子が珈琲豆になります」
「へぇーフルーツなんだ。なんか意外」
そういえば、コーヒーの赤い実は、缶コーヒーのパッケージなんかで見たことあるかも。
「実から珈琲豆を取り出す過程がなかなかに大変で、いくつか異なるやり方がございます。機械で外側の実を剥がして水洗いするウォッシュドという方法や、実を剥がした後に発酵させるハニープロセスなど。この豆は、赤い実がついたまま天日干しするという昔ながらの方法で豆を精製します。これをナチュラル製法といいます」
「ナチュラル製法が一番簡単そうだね」
ユキがそう言うと、店長さんは意味深に微笑んだ。
「実は、ナチュラル製法が一番大変なのです。天候に左右され、乾燥の途中で腐った豆などが混ざると品質が落ちてしまう。ただし、丁寧に管理されたナチュラル製法の珈琲豆は、フルーツ本来の甘みや香りが素晴らしいのです」
「へぇえ〜!それだけ手間暇かかってるから高いんだ」
どうしよう。
こんなに丁寧に説明されたら、この貴族が飲むようなお値段の珈琲を飲まなきゃ悪い雰囲気になるじゃない……。
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