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6・7人目 八木姉妹
『いらっしゃいませ!ようこそイヌカ珈琲専門店へ』
待ちに待ったお客様のご来店に、僕と秋田君の声は思ったよりハイテンションに綺麗にハモった。
それがお客様へは少々圧が強めに感じられてしまったかもしれない。扉を開けて店内に入りかけたハイヒールの足が一瞬ビクッと止まった。
「あ、ええっと……2人です。珈琲飲めます?」
おずおずと尋ねてきたのは、ふわっふわゴージャスな巻き毛の羊型のお客様だった。
「お姉ちゃん立ち止まらないで入ってよ」
すぐ後ろから顔をのぞかせたのは、頭にリボン飾りを付けた山羊型のお客様。
「珈琲ならたくさんご用意しております!2名様ですね」
秋田君が白い歯を見せて爽やかにお客様を店内へ迎え入れた。
「えっ!店員さんヤバ!稀に見るイケメン!」
秋田君の顔を見た山羊型のお客様が羊型のお客様の腕を掴んで、思わずといった感じに口に出した。
「ありがとうございますマドモワゼル。貴女方をお出迎えするために毛繕いに3時間かけた甲斐がありました」
秋田君がちょっぴり冗談を交えてウィンクすると、お客様は顔を見合わせて「3時間はないわ」と笑った。
「外は寒かったでしょう。さぁどうぞお好きな席へ」
「す、好きな席だって。どうしよう、ユキちゃんどこが良い?」
「席なんてどこでも良いわよ。もうお姉ちゃんて優柔不断なんだから」
「だって、窓際は陽が入るから日焼けしてシミができちゃうし、カウンターはちょっと恥ずかしい……」
「何が恥ずかしいのよ?変なお姉ちゃん。じゃあカウンターにしよ」
「えぇ?あ、ユキちゃん待ってよぅ」
どうやら姉妹のようで、姉の方が少々控えめ、妹の方はグイグイ決定していくタイプのよう。
山羊型の妹が先にカウンターのど真ん中へ腰掛けると「はーっ!やっと座れたー。あったかいー」と言いながらテーブルに置かれたメニューを早速開く。その隣へ羊型の姉が少しモタモタしながらコートを脱いで腰掛けた。
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