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「でも私的には予算オーバーだから、もっと安くて美味しいやつが良いな」
こういう事をハッキリと言える妹は頼りになるなと尊敬している。
私ひとりだったら……雰囲気に負けて、モヤモヤしながら一杯3,000円の珈琲を頼んでしまって、後で自己嫌悪に陥ると思う。
もしくは勇気を出して「普通の珈琲をください」と言えたとしても、店員さんの顔色を伺い(あぁ、きっと“ケチな客が来た。早く帰れ”と思われているのだわ)なんて想像して、ビクビクしながら、味のしない珈琲を飲むのだろう。
我ながら、臆病すぎるこの性格をどうにかしたい……。
「ご安心ください。珈琲豆の値段は、採れる量が少ない上に、品質と味が良く、人気があるものが高くなります。生産量が多い品種ならば、同じように高品質でも気軽に飲めるものもたくさんありますよ。リーズナブルな珈琲豆でも味は保証します」
良かった。
このお店の人は、高価な商品を押売りしてくるタイプじゃないみたい。店長さんの落ち着いた良い声も相まって、初めてのお店でも少し緊張が解けてきた。
「お姉ちゃんはどれにすんの?」
「私は……何でもいいわ。普通の」
「えー?普通ってどれよ?」
「普通……に感じられるかはお好みによりますが、当店オリジナルの“イヌカブレンド”は、苦味と酸味のバランス良く仕上げております」
「表のど真ん中に書いてあるやつね!じゃあ私は“イヌカブレンド”に決めた」
「あ、私もユキちゃんと同じものにするわ」
「かしこまりました。淹れ方もお選びいただけますがいかがいたしましょう?」
「淹れ方も選ぶの?この中だと……ペーパーは飲んだことあるけど、知らない淹れ方ばっか。せっかく専門店に来たんだから、変わったやつが飲んでみたいな」
「では、おすすめの淹れ方でご用意いたしましょう」
「お願いします!」
「私は、何でも……普通ので……」
「“変わったやつ”と“普通のやつ”でございますね。かしこまりました」
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