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開店前日
「いらっしゃいませ。ようこそイヌカ珈琲専門店へ」
ここは獣人世界のとある街角。
大通りから一区画、路地裏へ入った所。
目立つ場所ではないけれど、駅からもオフィス街からも近いという好立地に、僕のお城とも言うべき小さな店を構えた。
元々バーだったというこの空き物件を内覧した際、赤っぽいブビンガ材一枚板の立派なカウンターに一目惚れ。同じ色味で揃えられた背後の棚も天井まで高さがあり、自分が思い描いた店の設えにピッタリ一致して気に入った。居抜きで買取り、残ったままだったネオンサインを外したり、壁を塗り替えたりと、昼の営業に合うような雰囲気に改装した。薄いグレーの漆喰の外壁に合わせたのはナチュラルな木枠の窓と扉。
シンプルながらセンス良く仕上がったと満足している。
「さあ、いよいよ明日はオープンだが……秋田君、レジの金額登録と動作確認はどう?間に合いそう?」
カウンターの出入り口に一番近い場所へ、会計の為のレジを設置。その初期設定を、一緒に働いてくれる秋田犬の獣人、秋田君に任せていた。体の大きな彼は、狭いカウンターの端で窮屈そうにレジのモニターを操作している。
「大丈夫ですよ犬飼先輩。10種類のシングルオリジンに5種類のオリジナルブレンドは全部終わって、あとは販売用の器具類ももう少しで商品登録完了します」
秋田君が、ふわふわの大きな白い尻尾を誇らしげに左右に振って答えた。
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