3人が本棚に入れています
本棚に追加
その後
その後の話ですが、僕は蓮と『夫夫』になりました。もちろん正式なものではありませんが、蓮が用意した自前の「結婚証明書」に僕はサインをしました。あのときと同じように、親指に真っ赤なインクをつけて、指印を押しました。
「いやあ、牧野エミのインスタライブを見たとき、これは名案だなって思ったんだよね。そうか、自分で書類を作っちゃえばいいんだって」
「うん、そうだね」
「まあこれから先、本当に結婚できる未来があったら、そのときは正式な書類を書くってことで」
「そう遠くないと思うよ、多分」
「だといいな」
僕は幸せです。これからもずっと蓮がそばにいてくれる。その事実だけで、ニヤけてしまうでしょう。
あの夜のことですか? ただただ、やるせない気持ちでいっぱいになりました。牧野エミの気持ちは理解できます。でも、僕はやはり彼女のことをほとんど覚えていません。だったら彼女もいっそ、僕のことを忘れてくれよって思いました。そんな昔話、過去の思い出にもならないよって。でも、忘れられなかったんでしょうね。それ以上、何も思いません。
そうだ、あの日食べたお雑煮がやけに熱くて、母さんが「熱いな、これ」と何度も言っていたことは覚えています。たしかに舌を火傷しそうになるくらい熱かったです。だから僕はふうふうしてお餅をかじりました。覚えているのは、それくらいです。
最初のコメントを投稿しよう!