メリークリスマス、三田さん

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 一人の生徒が先生に向かっていった。 「サンタなんていないよ。」 すると、塾講師の先生が板書の手を止めて振り向くと、 「キミ、本気でそんなこといってるのか?。」 と、まるで疑うのが罪かのような眼差しで、生徒を凝視した。 「いや、だって、お父さんがいないっていってたし・・。」 隣の席で聞いていた好(このむ)は、そんなやり取りを不思議な面持ちで聞いていた。今は中一の数学の授業。生徒が雑談めいて、別の友人と私語をしていた。その内容がサンタの存在についてだった。 「じゃあ、キミは自分で確かめた訳じゃ無いんだな。なのに、どうしていないっていえるんだい?。」 初めはクスクス笑いながら聞いていた他の生徒達も、先生があまりに自然に、そして真剣に話すものだから、そのうち静まり返っていった。 「じゃあ、先生は、何でサンタがいるって解るんだよ?。」 先生の圧に押された生徒が反論を開始しようとした。すると、 「会ったもん。」 「えー!。」 「えー!。」 真顔で答える先生に、生徒達の何人かが感嘆の声を上げた。しかし、 「嘘だよ。」 と、サンタの存在を信じない生徒は、拒否し続けた。すると、 「メアドだって知ってるし。オレ。」 先生は淡々と答えた。 「どんなメアド?。」 「santa.com。」 それを聞いて、教室の中は思わず信じそうになる生徒と、いつもの冗談だと思う生徒に別れた。 「じゃあ、どうやって来るのさ?。」 「昔はトナカイに引かれたソリに乗って来てたみたいだけど、今飛行機で来てるな。」 あまりにも流暢に状況説明する先生に、生徒は次第に反論する勢いを失っていった。 「じゃ、じゃあ、飛行機で来たあと、どうやってプレゼント配りにいくんだよ?。」 「関空に着いたら、トナカイと一緒に荷物を受け取って、そのまま空港急行で南海本線の天下茶屋駅までいって、そこから地下鉄堺筋線に乗って、プレゼントを配って歩くって。大変らしいぞ。暮れも近いし。」 先生の説明は全く淀みが無かった。大ボラにしては、あまりに状況説明が具体的すぎた。それでも笑う生徒もいたが、みんな中一だというのに、いつの間にか生徒の殆どが先生の術中に嵌まっていった。 「さ、授業を続けるぞ・・。」 そういいながら、先生はみんなが静かになったのを見計らって、授業を続けた。好はみんなとワイワイ私語をしていた訳では無かったが、先生の話で、逆に集中が途切れてしまった。 「サンタ、いるのかあ・・。」 それまで、クリスマスのプレゼントは父親が深夜に枕元に置いてくれてたというのを知って、それでも黙って受け取っていた好だったが、教師の冗談をいつのまにか真剣に受け止めるようになっていた。そして、授業が終わった時、 「先生・・。」 好は先生のもとに歩み寄った。 「どした?。」 「サンタって、どの便で来るの?。」 先生は、もうとっくに終わった話だと思っていたが、好の真剣な眼差しに、 「うーん、通常は北欧便でイブの午前中に来るらしいけど、最近は何かと忙しいから、イレギュラーになったってさ。」 そういいながら、先生は好むの儚い夢を壊さないようにいうと、肩をポンと叩いて、教室から出ていった。  その先生は、授業が騒がしい時、生徒達を叱るのでは無く、ホラ話で黙らせるので、ちょっとした有名人であった。先日も理科の時間に、とある女子生徒が、レモンに二種類の異なる金属を差し込むと、電流が流れてモーターが回る仕組みを習っている際、 「何で電気が流れるの?。」 と、授業中に友達にたずねた。すると、 「静電気だよ。」 と、先生は真顔で答えた。確か教科書には電位差がどうたらこうたらって書いていたのに、それとは異なることをいいだしたので、 「違うよ、先生。」 女子生徒は反論した。すると、 「違うもんか。中に小さいオッサンが入ってて、両方の金属を必死で両手で擦るんだよ。すると、静電気が溜まって、電流が流れるのさ。」 先生は荒唐無稽にも聞こえる説明を始めた。当然、教室はざわついた。 「そんなの、いるわけ無いよ!。」 「じゃあ、なんでレモンは酸っぱいんだ?。」 先生がそういうと、生徒は黙った。 「必至で作業したら、誰だって汗だくになるだろ?。レモンの中のオッサンも必至に金属擦って、汗だくさ。汗をかいたシャツをそのまま放置したら、酸っぱい匂いが、しないか?。」 「・・・する。」 「だろ?。それは、オッサンが汗をかいた証拠さ。」 先生は、まるで自身の説を信じないのは、愚か者だといわんばかりに立て板に水で説明をした。すると、 「そっかー。」 と、合点のいった顔をする生徒さえ出て来始めた。 「さ、授業を続けるぞ。」 そういいながら、先生は授業を再開するのだった。その頃には、全員黙って、彼の授業に集中する、そういうスキルの持ち主だった。後日、騙された女子生徒が、 「先生、家帰ってレモン割ったけど、中にオッサンなんか、いなかったよ!。」 と訴えたが、先生は全く慌てずに、 「キミ、いい子にしてたか?。小さいオッサンは、いい子にしか見えないんだぞ!。」 と、真剣な表情で返した。 「そ、それは・・。」 女子生徒はぐうの音も出なかった。  到底、中学生に語る内容では無い話だったが、生徒達は面白がって、先生の話を食い入るように聞いた。またホラ話を挟みながら授業をしてもらおうと、ワクワク気分で生徒達は授業を待った。約一名を除いては。 「もうすぐ、イブだな。定期便じゃ無いとなると、朝から待つしか無いかな・・。」 好は、誰かに話すと馬鹿にされると思い、密かにイブの日の計画を練っていた。先生のホラ話が、思わぬ方向でサンタ信者を生み出そうとしていた。 「好、オマエ、イブの予定って、空いてる?。」 友達が内輪でパーティーを開くから、参加しないかと誘ってきた。すると、 「うーん、その日は、ちょっと予定が・・。いけたらいくよ。」 と、万一、サンタが来ずに空振りなのも予想して、念のために予約を入れておいた。 「そっか。じゃ、空いてたら来いよ。」 「うん。有り難う。」 好は友人が気を悪くしないように礼をいったが、頭の中はサンタのことでいっぱいだった。そして、イブの前日、 「母さん、ボク、明日朝から出掛けるから。」 「あら、そう?。夕方には戻れるの?。」 「解らないけど、出来たらそうする。」 と、家族でもささやかなパーティーを開く予定だった母親に、好は事前にそういっておいた。そして、ワクワクした気分で寝床に入ると、 「やっぱ、国際便のロビーだろうなあ・・。」 と、一人呟きながら、いつの間にか眠りに落ちた。そして翌日、 「チリリリリン!。」 と、目覚ましの音で目を覚ますと、好は服を着替えると顔を洗って、まだ暗いうちから出かけた。そして、電車で関空まで向かう車窓を見ながら、今日の出会いを信じて疑わなかった。そして、電車は関空駅に着いた。 「えっと、国際線の搭乗口は・・。」 と、案内板を頼りに、好は空港内をうろうろしながら、ようやく北欧便が着いた際に、乗客が降りて来るであろうロビーに来ると、椅子に腰掛けて、電光掲示板を見ながら、ひたすらサンタを待った。何便かが到着して、その都度、北欧返りらしい乗客が降りては来たが、その中に赤い服で白い髭を蓄えた人物の姿は無かった。それでも、好は高鳴る胸を押さえつつ、そして辛抱強く、目当ての人物が降りて来るのを待った。しかし、待てど暮らせど、それらしい人物は下りては来なかった。そして気がつけば、時刻は午後を過ぎていた。空腹も手伝って、好の気持ちも次第に折れそうになっていった。 「やっぱり、来ないのかなあ・・。」 好が俯いて溜息をつこうとしたその時、 「ザワザワ・・。」 と、何やら向こうの方から人々が小声で騒いでいるのが聞こえた。その様子に、好が顔を上げると、向こうの方から、ちょっとした人々の集団がやって来た。 「うわ、サンタだ。」 「ホントだ、サンタだ。」 好は思わず立ち上がった。すると、集団の真ん中には、赤い帽子に赤い服、そして、白い髭を蓄えた大柄の人物が、ゆっくりと歩いてきた。そして、その横には、 「わ、シカだ!。」 「ホントだ、シカだ!。しかも、二足歩行だ!。」 と、群衆は奇妙なことを口々にいっていた。好はその光景に、言葉を失った。しかし、直ぐさま、 「来たーっ!。ホントに来たーっ!。」 と、心臓が一気に高鳴った。そして、ゲートを潜って出て来た一人と一頭の後を、トコトコと着いていった。すると、彼らは空港を出ると、電車の駅に向かった。そして、赤い服の人物はポケットから小銭を出すと、券売機で乗車券を二枚買って、一枚を動物に手渡した。そして、自動改札を通り抜けると、そのままホームまで上がっていった。好も遅れまいと、乗車券を買うと、彼らの後を付けていった。ホームに立つ彼らの姿を、待っていた客達も驚いて見つめていたが、時期が時期だけに、何かの仮装だろうと、空港内の時ほどは近寄らずに、遠巻きに見つめていた。約一名を除いては。好は、彼らの真後ろにピタッと付いて、一緒に電車が来るのを待った。そして程なく、空港急行が来ると、彼らと好は電車に乗り込んだ。そして、彼らは空いてる席を見つけると、静かに座って、旅の疲れを静かに癒やしているようだった。動物は時折、車内の中吊り広告を見ながら、少し楽しそうにしていたが、赤い服の人物は、車内に差し込む柔らかい日差しに、ウトウトし始めた。そんな様子を、向かいの席に座りながら、好はじーっと見つめていた。 「やった!。会えた!。やっと会えた!。ホンマものだ!。」 好はつぶさに観察した。赤い服の人物はそのまま寝入ったようだったが、好の視線に気付いた動物が、少し照れくさそうにしながら、好に会釈した。すると、 「あ、こんにちわ。」 と、好は挨拶を返すと、赤い服の人物の隣が空いたので、其処に移った。そして、横並びになりながら、ニコニコ顔で彼らを眺めた。しかし、好はあることに気がついた。 「白い大きな袋が無い。それにソリも・・。」  これから大量のプレゼントを配って歩くにしては、身一つで来るのはおかしいと、好は思った。そして、 「ソリ・・は?。」 と、好は思わず言葉を漏らした。すると、その声に気付いた赤い服の男性が目を覚ましながら、 「ソーリー?。ノーノー。OKデース。」 そういいながら、好を見て微笑んだ。やはり、北欧から来たから言葉は通じないかも。そう思いながらも、 「ジャパニーズ、OK?。」 と、好はたずねた。すると、 「もう随分来てるから、大丈夫だよ。」 と、赤い服の男性は、気さくに答えた。あまりにも自然に答えてくれるので、好は感動を通り越して、寧ろ普通に会話を始めた。 「あの、そっちの動物の方は、シカですか?。」 好がそういうと、赤い服の男性は隣の動物と顔を見合わせて、互いに笑い合った。 「はっはっはっ。シカせんべいをあげてご覧。彼は食べないから。」 そういうと、赤い服の男性は好むにウィンクをした。それを聞いて、隣の動物も、右手の親指を立てて見せた。そして、 「ところで、キミ、名前は?。」 赤い服の人物がたずねた。 「あ、はい、好です。」 「好かあ。いい名だ。そうそう、我々は・・、」 そういうと、赤い服の人物と隣の動物は名刺を捕りだして、好に差し出した。 「三田黒酢・・?。」 「ははは。さんだ、くろーずだよ。」 赤い服の人物は、笑いながら答えた。そして、 「トナー買い・・?。」 「それで、となーかいです。」 隣の動物は、ボソッと答えた。 「ふーん、さんださんと、トナーさんかあ。あの、ところで、ソリとかプレゼントとかの荷物は?。」 好は謎に思っていたことを、思い切ってたずねた。 「あー、それなら、この後天下茶屋駅で降りて、手荷物受け渡し場で受け取って、今日の分を配って回るのさ。」 と、赤い服の人物はそういうと、この後の段取りについて簡単に説明を始めた。それによると、行程の殆どは電車移動だった。 「あの、ソリは?。」 「はは。道路使用の許可が降りなかったんだよ。残念ながら。」 赤い服の人物は、えらく現実的な解答をした。 「え?、でも、あのソリって、飛べるんじゃ・・?。」 好は昔に聞いたことのある話をたずねた。すると、 「うーん、それもね、飛行許可が下りなくって、結局はダメさ。」 そういうと、赤い服の人物は肩を竦めた。確かに、最初から飛べるなら、飛行機なんか利用しなくても、北欧からソリで直行出来るはずである。あちらからこの国までの飛行は不可能だったのか、好はたずねてみた。 「あのね、飛行機の邪魔にならないように、高度一万メートル以上で飛んだら、どんだけ寒いか、知ってる?。」 赤い服の人物は、眉間に皺を寄せながら、真剣に答えた。好は彼らに会えたことは凄く嬉しかったし、彼らが本当に実在していたことについて感動もしていた。しかし、こう現実的問題に雁字搦めでは、何だか半分、興醒めだなという感慨も少なからず抱いた。 「じゃあ、広範囲に沢山の子供達に、一体、どうやってプレゼントを届けるの?。」 好は物理的に不可能であろう謎についてたずねた。すると、 「それは企業秘密さ。はっはっはっ。」 赤い服の男性は笑いながら動物の方を向いて、ウィンクをした。しかし、 「ところで、キミは我々の存在を信じるぐらいに、いい子らしいから、特別に、その秘密を教えてあげようかな。」 そういうと、赤い服の人物はポケットから何やら小さなビニール袋を取りだした。好はその中を覗き込んだ。其処には黒く干からびた茸のようなものが数本入っていた。 「これは、飛ぶキノコといってな、こいつを粉にして鼻から吸引すると、一気に飛べるんじゃ・・。はっはっはっ。」 と、赤い服の人物は不敵な笑みを浮かべた。すると、空かさず隣の動物がその袋を取り上げると、 「NO!。」 と、眉間に皺を寄せながら、赤い服の人物を諫めた。それを察して、好もこの人物は、一体どうやって税関を潜れたのだろうと、幾分不思議に思った。 「はっはっはっ。冗談じゃよ。さて、駅に着く頃だ。我々はボチボチいくとするかな。道中、楽しかったよ。好君。じゃ、またな。ほっほっほっ。」 電車が駅に着くと、赤い服の男性は好に向かってにこやかに手を振りながら、電車を降りていった。そして、その後ろを、取り上げた飛ぶキノコを何とか隠そうとしながら、動物は好に会釈しつつ、電車を降りていった。結局、好は彼らがこの後、どんな風に子供達にプレゼントを配って回るのかを見ることは出来なかった。しかし、 「うん。会えた。本当に会えた。よしっ!。」 と、好は満足げに、そのまま電車に乗って最寄りの駅までいった。途中、好は手渡された名刺を見てみた。すると、 「あ!。」 と、思わず声を上げた。そこには、 「santa.com。」 と、メアドが書き込まれてあった。 「あの人、あの作業を、会社としてやってるのか・・。」 と、先生のホラ話が本当だったことより、大がかりなプレゼント配送の組織なんだなと、熟々感心したのだった。  夕暮れ前に家に戻れた好は、一端家に戻ると、直ぐさま友達のパーティーに参加しにいった。一人の友達の家に、仲間達が集って、ケーキやお菓子を食べながら、ジュースを飲んだりと、みんな思い思いに楽しんだ。そして、 「それにしても、あの塾の先生、大ボラ吹きだよなー。」 「ホントホント。」 と、例の先生の話題で持ちきりになった。 「あんな話で、オレ達が騙せると思ってんのかな?。オレ達、中学生だぜ。」 「ははは。だよな。でも、咄嗟に、よくあれだけの嘘をいえるよな。」 「確かになー。あんな風に、真顔で嘘吐かれたら、幼い子だったらコロッと騙されるだろうなあ。」 そういいながら、みんなは先生のことを悪くいうでも無く、しかし、決して信用出来るって訳でも無い、そんな複雑奇妙だけど、不思議なキャラについて語り合った。約一名を除いては。そして、 「好は、どう思う?。」 と、たずねられた瞬間、彼らにいっても信じるかどうかと思いつつ、 「うん。でも、本当だったよ。」 そういいながら、ポケットに忍ばせてあった二枚の名刺を取りだした。 「今日、関空まで会いにいってみたんだ。そしたら、本当に赤い服の人と動物が下りてきたよ。」 と、今日の出来事をみんなに話した。友達は奪うように名刺を取り上げながら、 「何だ?、これ。」 「三田だってよ!。」 「こっちはトナー買いだってさ!。」 「はっはっはっ。手が込んでるなーっ!。」 友達は、好が凝った悪戯をするもんだと、笑いながらも感心した。しかし、其れを真に受ける子は一人もいなかった。 「グッジョブ!。」 名刺を持った友達は、右手の親指を立てると、名詞を好に返した。好は名刺を受け取ると、やはりかという気持ちで、それを再びポケットに仕舞い込んだ。自分は本当に見たし、会った。でも、そのことを信じてもらえなくても、まあ、そんなもんだろうと、好は思った。そして、パーティーがお開きの時刻になり、みんなは三々五々に帰っていった。好も一人、家路に就いた。そして、トボトボと歩いていると、 「プップー!。」 と、後ろから車のクラクションが鳴った。好が振り返ると、例の先生が淡い黄色の軽自動車を運転していた。好は急に明るい表情になり、 「あ、先生。」 そういいながら、今日あった出来事を先生に話した。そして、ポケットから名刺を取り出そうとしたとき、 「そっか。みんなは信じなかっただろう?。」 と、先生は何かを見越しているように、好に話しかけた。 「そうなんです・・。」 「よし。ちょっと乗れよ。面白いもの、見せてやるから。」 そういうと、先生は好を助手席に乗せて、そのまま車を発進させた。そして、十分程走った辺りに、通天閣が見えてきた。先生は立ち飲みの店が軒を並べる界隈にまで車を進めると、一軒の店先で車を止めた。 「ちょっと下りてみな。」 先生は、好を車から降ろすと、自身も下りてドアに鍵をかけ、ホルモン焼きの香る店内に入っていった。 「いらっしゃい!。」 「おじさん、ホルモン焼き二つ。それと、ジュースとお茶を。」 「あいよー!。」 好は気後れしながら、立ち飲みの客の間に並ぶと、ホルモンが来るのを待った。 「はい、お待ちー!。」 目の前に、タレとネギのたっぷり掛かったホルモンが置かれた。 「さ、食べよ。」 そういうと、先生は一つを好むに差し出して、割り箸を割って渡した。好は始めて経験するホルモンの熱さとタレの美味さに驚いた。 「どうだ?。」 「はふはふ・・。美味しいです。」 好が熱そうにそう答えると、先生は好むの肩をツンツンと突いて、店の奥の方を指差した。 「見てみ。」 好は何事だろうと、店の奥を見た。 「あー!。」 其処には、赤い服の人物と動物が、ホルモンを食べながら乾杯をしている姿があった。そして、周囲の酔いどれた客達と、談笑していた。 「三田さん、今年のクリスマスは、どーだった?。」 「いやー、道は混むし、ソリは使えないしで、大変だったよ。」 「よう、トナーちゃん。相変わらず、立派だけど、狭い店には邪魔だな。その角。」 「あ、スイマセン・・。」 「はははは。」 そこには、まるで居ることが当たり前のような、常連客とサンタとトナカイの姿があった。好は急に嬉しくなった。そして、先生の顔を見上げて、 「先生、ほら、本当に・・、」 好がそういいかけたとき、 「信じる者だけが会えたら、それでいいのさ。だから、ボク達も、あの人達も会えた。そういうことさ。」 先生はそういいながら、それ以上多くは語らなかった。そして、二人は心ゆくまで、サンタ達と共に幸せな時間を共有した。そして、先生が勘定を終えて、二人が店をでようとした時、 「チリンチリン。」 と、鈴の音がした。好がその音に気付いて、そっちの方を向くと、トナカイが首のベルを揺らしながら、好に手を振ってウィンクをしていた。まるで、メリークリスマスとでもいっているように。
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