灰色の瞳に映ったものは

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「あなたの件で,中央がざわついて来てるのよ。あなたの能力が,国を揺らぐ元になるんじゃないかって」 「何故?わたし?」 首を傾げて,はて?といった面持ちをする芽生に,艶珠は淡々とその理由を述べていった。 「あなたの能力が,強すぎると言うべきかしら。これに気付いた輩が,いつ何処から現れるかこちらとしても判断がつかないの。目覚めかけている別の能力も,使い方次第で私の在籍する部署に入れるべきだと,上の人間たちが・・・」 嫌だ!芽生は首を振った。 「行かない・・そんな場所。わたしには,可愛い子どもたち・・と,おばあちゃんの居る,食堂。わたしの,居るべきところ」 色が視えるのが,国を揺るがす理由ではない筈だと,詰まりそうになりながらも反論を繰り返す芽生。 大国と呼ばれる国では,能力を持つ人間は専門の訓練機関で特訓し,能力を活かせる職業に就く事があるらしい。 しかし,こころの病を発症した芽生にとって,特別な能力でも何でもないと思っていたモノに目を付けられた事に憤りを感じた。 喰ってかかりそうな勢いで,艶珠を睨み付ける芽生。嫌だ!どうしても行きたくないと,わめき散らしている。 やらなくちゃいけない事がある。食堂の手伝いに,カフェにいる子どもたちの面倒に,大量遺棄された子どもたちの家族探し。 これら全てを放棄して,艶珠のいる職場にだなんて移れる訳がない。 両親との不和を元通りにする事も,大好きな姉と弟と離れるのも,それはもう少し先の筈だと思っていた。 大声でわめき散らしている芽生を心配してか,瑠璃子がテーブル席へ駆け寄った。 「どうしたの?大声で騒ぐだなんて。他のお客様に迷惑でしょ。お客様はこのカフェに癒しを求めていらっしゃってるの。勿論,子どもたちの家族になりたいと仰る方も少なくはないわ」 芽生は大声で騒いだため,周りのお客様が何事かと心配している様だった。 済みませんと周りのお客様に頭を下げてまわると,安心したのか,『別に,良いですよ』と笑ってくれた。 瑠璃子には,この事は絶対に悟られてはいけないのだ。芽生自身の悩みも,これから目覚めるであろう別の能力の事も。 そして,瑠璃子が大切にしているカフェやスタッフ,犬や猫の保護活動の仕事を台無しにさせようと企む『ア レ』の妨害を,阻止しなくてはならないのに。 「…芽生?芽生,どうしたの。具合が悪いの?」 心配する瑠璃子の声に,ハッとする。 何でもないと首を振るが,頭の片隅にこびりつく厄介事の諸々が,芽生の肩に重くのし掛かる。 来週の土曜日までにやるべき事を最優先にさせよう。芽生のネットワークを駆使した,特定のお客さんへのDMの送付と,大量遺棄の件の動画配信を仕上げてしまおう。 これで,何人の人間がこの動画に気付いてくれるだろうか?遺棄する事への罪悪感が,ひとりでも多く感じてくれる事を信じたい。 子どもたちを愛し,大切にしてくれるずっとの家族が迎えにきてくれると,あの子たちに良い続けてきた事を,無為にさせたくないのだ。 やがて,病院から戻ってきた北斗に気付き,芽生はあかねの容態を確認した。 所々,階段で付いた打ち身が目立つものの,右足首の捻挫が酷く腫れ上がり,熱が出るとの事で解熱鎮痛剤と湿布を処方された。 幸いにも骨は折れていないが,骨密度の高い良い骨をしていると,先生が太鼓判を押した。 ひと安心したのか,疲れが身体中に溢れ出してきた。今日は,本当に色んな事が有り過ぎた気がする。 子どもたちの件やら,ペットショップの事もそうだ。本来,芽生自身が方々へ手配したり,子どもたちを探し出したりするのは,それを専門に行う職業の人間,或いは警察官の仕事じゃないかと思えてしまう。 だからと言って,関わってしまった以上,手をこまねいている時間と暇は芽生には無いのだ。 より良き方向へ,物事を解決したい。 それが,芽生の願いでもあるのだから。 それにしても,今日は疲れた。 何だか・・とっても眠い。 芽生の記憶は,そこで途切れた。
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